落ちこぼれ








 面接だな!


 これまで俺の面接に合格した奴はいない。


 最後に脅しておけば近づいてくる事はなくなる。


「おい、今から模擬戦をやるぞ」


「でも、いいんですか? 勝敗は明らかじゃないですか」


 コイツ!


「お前は魔力で勝敗が決まると思ってるのか?」


「いや普通にそうでしょ」


「じゃあ、かかってこいよ」


 俺が剣を構えると違和感を感じる。


 ん? なにか、おかしいぞ?


 この学園に入った時から感じていた違和感が剣を構えた瞬間に色濃くでてくる。


 まるで鎖に身体を縛られて、鉛のように身体が重く、全身が自分の身体じゃないような違和感を。


 アクアはそんなクレスの状態も知らずに模擬剣で斬りかかってくる。


 それは剣の勇者な俺ならアクビしていても避けられるまるで意思がない剣撃。


 だが。


「ぐはっ!」


 模擬剣を腹にくらい俺は吹き飛ばされる。


 そう、反応事態が出来なかったのだ。


 俺ならオーラルを身に纏っただけの奴に負けるはずがない。


「すいませんクレスさん、大丈夫ですか?」


 アクアは俺に近寄り座ってる俺を立たせようと模擬剣を持っていない左手を伸ばしてくる。


「あぁ、悪いな」


 俺は内心動揺していた。


 俺の身体に何が起こった? まさか! いや、考えすぎだろ。


 でもそれしか考えられない。


 学園に張られた魔術か? それとも学園に入った瞬間に何かの呪いをかけられたのか?


 俺の知らない魔術があるとも考えられる。


 一番は呪いだよな。


 俺が吹き飛ばされたことでペアを組み終わったクラスの奴等から笑いが起きる。


『なにあれ、やっぱり魔力ないと話にならないな』


『剣の勇者も魔法剣で魔法を斬ってたって説もあるから魔力なくて剣士を目指す奴はその説は信じたくないんだろ』


『だよな魔力ないと邪神と渡り合えるはずないしな』


 周りの奴等は俺をバカにし始める。


 剣の勇者は魔法を使えたという説もあるのか。


 俺は魔法を使ったことはないが、周りから見れば魔法を使っていたように見えることもあるか。


「なぁ、お前の魔法を見せてくれよ」


「いいですよ」


 立たせて貰った後にアクアの魔法を見せて貰えることになった。



『水魔法一式』


 初級魔法。


 水がアクアの前に集まる。


『ウォーター』


 水の玉が一直線に壁にあたる。



『水魔法二式』


 中級魔法。


 現れた水の玉が薄く伸ばされていく。


『ウォータースライサー』


 さっきよりも速いスピードで壁を切り刻む。




『水魔法三式』


 上級魔法。


 人を飲む混む程の水がアクアの前に現れる。


『ウォーターレート』


 壁に当たると一瞬で爆発する。




『水魔法四式』


 超級魔法。


 さっきの人を飲み込む程の水がまた現れる。


『ウォータートルネード』


 水が回転してデカイ竜巻のように地面の土を抉りながら壁にぶつかり止まる。




「これで初級から超級までやりましたよ」


 アクアは額の汗を拭う。


「待て、何で属性の言霊をいれないんだ? 自分で魔法に聞くんだろ?」


 俺は今の常識を知らない。


「それはロストマジックと言われるそうですよ。昔の五百年前ぐらいから使う人が急激に減ったそうです。今は基本の魔法式を作って式を切り替えるみたいな作業です」


 アクアは右手を壁に向ける。


『水魔法一式』


 右手から出た水の玉を。


『スプラッシュ』


 目の前で爆発させる。


「このように何でも使える基本の式を最後のイメージで定着させるのが今のやり方なんですよ」


 なんだそれ? ロストマジックって失われた魔法か。


「ロストマジックは強力ですが魔法式を最初から自分で作るのは結構大変です。そういえば昨日のミミリアさんも武器の創造はロストマジックを使っていましたね」


「じゃあ、ミント……先生もロストマジックを使うのか?」


「えっ? 知らないんですか? ミント先生は他の国にも伝わっている程の天才ロストマジック使いですよ。その中でも今はほとんど使える人がいないロストマジックの精霊魔法は精霊の勇者と肩を並べるだろうと言われてる程の使い手」


 じゃあリリアもロストマジック使いだな、俺が教えたし。


 アクアが少し興奮している。


 ミントって実は結構凄かったのか。


「だけどロストマジックは詠唱にイメージにと基本の式を使うのと比べると魔力の消費が高いんですよ。今の基本の式を使うと詠唱の簡略化、イメージの簡略化、魔力の消費量も減るという利点が多いんです」


 ふむふむ、勉強になるが昔と違うのは魔法の簡略化だけか。


「じゃあ五百年前とは違う新しい魔法とか知らないか?」


「そうですね、今の……」


 今の基本の魔法は、攻撃系魔法、防御系魔法、回復系魔法、付与系魔法。


 ここまでは違いはない。


「……そして妨害系魔法です」


「待て、今なんていった?」


「妨害系の魔法ですか?」


「なんだそれ?」


「妨害系で一番使われるのが魔力の差がある人に対して使われる弱体化の魔法ですね」


 これじゃないのか!


「この魔法は普通は圧倒的な魔力の差がないとかからないんですよ。そういえばこの学園に張られた魔法にも似たような物がありましたね」


 謎がとけるな。でもそれは俺達の時代では最強で最悪の呪いの魔法じゃなかったか。


 呪いの魔法は自分より弱い相手をいたぶり殺す魔法だ。そんな魔法がなぜ?


 圧倒的な魔力差? 当たり前だろ。それは人より魔力が多い魔族が考えた魔法なんだから。


「あと弱点は色んなところにあります」


 それも知っている。魔力量が圧倒的に離れていても魔力を纏えば無効にできる。呪いは効かないし、もしかかっても弱体化はなくなる。


 俺の弱点の魔法だが、俺が魔族と戦えたのは呪いの魔法は詠唱に時間かかり戦闘中に使うのは無理だったからだ。発動してもその魔法ごと斬るし。


 魔族の魔法を人が使えるようになっているのは想定外だった。


 俺がこの学園に入った時に気づかなかったのは、精霊神が近くにいたからか。


「この学園にかかってる妨害系の魔法はなんだ?」


「たしか一定の魔力量から下になればなる程に身体能力が下がり身体の自由が効かなくなる魔法でしたね。クレスさんは何で動けてるんですか?」


「そんなことはどうでもよくないか? 気になるのは魔族の魔法が広まった理由はなんだ?」


「なに言ってるんですか? 剣の勇者の仲間だった魔王が広めたんじゃないですか」


 アイツかよ。


「歳を取らない美女で、今では魔国を治めてる魔王様ですよ」


 しかも生きてるのかよ。その事は置いといて、この魔法を壊すか? いや目立たないようにリリアを見守るならこの方が都合いいかもな。


 俺の目的はリリアに群がる害虫の駆除だ。 


 理由はわかったし面接を再開しようか。



「おい、お前! 俺に一撃でも当てられたらリリアに近づくことを許してやるだから」


 呪い状態だから俺が負ける? それは。


『本気でこいよ』


 冗談だろ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る