面接








 俺はイケメン君に向かい合う。


 もしかしたらイケメンが近づいたらリリアが惚れるかも知れない。


 そんな顔で惑わせられるような妹じゃないと信じているが、リリアが惚れた奴なら文句は言わないと決めている。


 だが惚れる前にあっちから退散して貰うなら別にいいよな?


 俺、何か悪いことしてますか?



 でもチャンスぐらいはやってもいい。


 クラス中の男子がチラッチラッと見るなか、コイツだけはガン見だったからな。


 度胸だけは認めてやる。


 まずは見込みがあるのか面接を始めようか。


「お前オーラル使えるんだよな?」


「使えますけど」

 

「じゃあ使えよ、鍛えてやるから」


「で、でもクレスさんは魔力がないんじゃ」


「オーラル使えば身体能力も上がるだろ? あんまり弱いと手加減もできん」


 俺より弱いと話にならないよな。リリアは俺より強い奴じゃないと絶対に渡さん。


 アクアは半透明な水色の魔力を身に纏う。


「お前そのオーラルじゃ特殊能力も発動出来ないんじゃないか」


「はい、僕にはまだ無理です」


「いや、まだじゃなくもう出来ても可笑しくない」


「えっ!」


 アクアはずっと努力してきたんだろうオーラルを見たら分かる。


「お前なんでもっと魔力量を調整しないの? 今のお前はコップに魔力をドバドバいれてる状態と変わらねぇーぞ! だからコントロールが乱れるんだよ」

 

 アクアは俺の指摘に驚愕する。


「オーラルの特殊能力は本来、魔力があってコントロールが出来れば誰でも出来るんだぞ」


「僕が知ってるのは違います、特殊能力は一定以上の質の向上ですよ」


 アクアが俺に反論する。


「は? なに言ってんの? オーラルを身に纏うって事がわかってないな。お前の言い方じゃオーラルの特殊能力には質が必須みたいに聞こえるんだが」


「クレスさんは魔力がないから分からないんでしょうけどオーラルを使える人は全員同じ考えですよ」


 えっ? それ常識なのか?


「お前、昨日のリリアの戦い観てないのか?」


「僕は気絶してしまっていたので」


 まぁリリアの見たところで分からないか?


「ふむふむ、俺から言わせて貰えば特待生の奴等はリリア含む数名以外、後一歩だな」


 今の一般の考え方は質の向上、俺のは古い考え方だ。


 なんせ九百年以上前の魔法の知識だからな。


 だが一番危険な時代の勇者の考え方だ。誰も教えてくれないなか自分だけで辿り着いた答えは独学とも言っていいだろう。


「オーラルというのは淀みなく身に纏わせれば質は関係なく特殊能力は使える」


「いや、だって」


 俺はやれやれと手を振る。


「まだわかんねぇの? 質の向上はいわば薄めるだけだ。それは薄めた魔力で薄める前の魔力と同等の力を付けさせる為の魔法技術じゃないのか? なら原液の状態でも出来て可笑しくない。なのにお前が出来ないのは何でだと思う?」


 なんで魔法使えないのにこんなに詳しいのか? 分かるだろ? ファンタジー世界で主人公補正があったら何時か魔法使えると思うじゃん! そのために知識を蓄えた。


 その知識は無駄になったのだが。


「そう考えたらそうでしょうけど、わかりません」


 この常識が広まったのはたぶん。


「お前らが常識と思ってる考え方は特殊能力に必要な魔力量が足りてない奴が広めた知識なんだろ。魔力量が低い奴が質を向上させていけば魔力のコントロールも次第に上手くなる。そして魔力量を質で埋めてやっと特殊能力を発動できる」


 俺はクレスの話を真剣に聞く。


「質は魔法で使う魔力量を減らす為の技術だ。質が大切なのも分かる。魔力量が低い奴は質を極限まで高めないと特殊能力は確実に発動できないからだ。だがお前ら特待生はすでに魔力量がある」


「僕達の考えが違うなら答えはなんですか?」


 特待生が特殊能力を発動出来ない理由は。


「特待生達は魔力量が多すぎる、魔力量が大きすぎるとコントロールが異常に難しいんだ。オーラルの特殊能力を使うのは簡単だ、身に纏わせるだけでいい。今のお前は纏ってるんじゃなくて魔力を浴びせかけてるだけだ」


 ほとんどの特待生は纏ってる魔力が大きすぎてコントロールができなくなり魔力が逃げている。


 たぶんコイツの場合は独学でやってたから、やり方を知らないだけだろ。


「答えを教えてやる! まずは順にやるからな、目を閉じて魔力を感じろ」


 アクアは俺の言う通り目を閉じるとオーラルを引っ込め、身体の中の魔力を意識する。


「まずは基本だ! 魔力の消費を抑える為に質を上げろ」


 質を上げても測定器で魔力量は変わらないが、擬似的に魔力量があがる。


 アクアが集中すると魔力が跳ね上がる。


 努力しているのは分かっていたが、相当努力してるな。


「次に魔力のコントロールだ! 消費していく魔力の分だけ魔力を供給していくんだ。溢れさせないように意識しながら身体から魔力を出せ」


 アクアの顔から汗が流れる。


「そして魔力を身体に纏う、イメージしろよ! 身体中の血液のように淀みなくながれるように魔力を流せ」


 アクアの身体から半透明の水色の魔力が肌を伝うように覆っていく。


「出来てますか?」


 アクアは滝のような汗を流しながら俺に問う。


「あぁ、その状態なら特殊能力を発動できる。お前は独学だったんだろ? 努力していた分だけお前は魔力をコントロールすることに長けている。意識してなくても今のお前ならその状態を維持できるだろ」


「いえ僕にはまだ無理です」


「お前は本当にバカだな! 今、順にやったのはオーラルの基本だぞ、お前はその基本を知らなかったにすぎないんだよ」


 自転車に乗れなかった奴が乗れるようになった時にはもう乗る基本を覚えてる。乗れなかったのは乗る基本を知らなかったにすぎない。


 俺は右手の模擬剣でアクアを斬りつける。


 アクアはそれを後ろに飛んで回避する。


「なにするですか!」


「ほらな?」


 アクアの身に纏うオーラには微塵も揺らぎがない。


 自転車の乗り方が分かった奴はもう乗り方を忘れない。


「お前は今、意識してコントロールしてるか?」


「意識してないです」


「じゃあ特殊能力を使えるはずだな」


「どうやって使えばいいんですか?」


「簡単だろ? お前の魔力が教えてくれるんだよ。魔力に耳を傾けろ、魔力の声を聞け」


 アクアは魔力に身を委ねると魔力が教えてくれる。


「能力は、空気中の魔力を吸収して、自分の魔力に変換できる能力ですね」


 アクアのオーラルの能力は魔力吸収だ。


 うわ~少しワクワクしたのに地味だな。


「よかったじゃないか」


「はい、使ったらもう魔力全快ですよ」


 待て、地味とか言ったけど超強くね? 何コイツ。


「これも全部クレスさんのお陰ですね。ありがとうございます」


 まぁ、少しは見込みがあるな、覚えも早いし。


 次は面接だな。


 リリアに相応しい人物か見てやる。


 



 

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