オーラルフォーゼ









「私に攻撃してるの?」


 リリアはこんな生温い攻撃知らなかったのだ。


 クレスは手加減してるとか戯れ事を言っているが剣の勇者なクレスは研ぎ澄まされた剣撃を容易く放つ、それを見慣れているリリアはミミリアが攻撃してるのか遊んでいるのかの区別がつかなかった。


 剣の勇者は天才というが一般に見たリリアは人の形をした化物だろう。


 会場中が静けさを取り戻しミミリア自身も避けられた事で困惑を隠しきれない。

 

「え~と触れたら勝ちになるんだよね、えい!」


 そんな中リリアはミミリアの肩へ右手を置いた。


 するとミミリアの身体が幻のようにブレてリリアは右手を置こうとした勢いでミミリアの身体を通りすぎる。


 困惑していたミミリアは能力の発動によりすぐさま再起動する。

 


「今のが絶好のチャンスだったのに残念だったな、さっきまでの特待生達を見てなかったのか? 私に魔法以外での物理的な接触は出来ない」


 リリアは見てなかったのだ、勝ってクレスに褒められた自分を想像していただけ。


「じゃあ魔力込めればいいのかな?」


 リリアは右手に魔力を込める、一瞬の光と共に白銀色の魔力がリリアの右手に現れる。


 ミミリアは発現した魔力の質が異常に高いことを確認するとさっきまで無防備の状態から剣を構える。


「なんだその濃密な魔力は」


 こんな子供が歴戦の魔術師のような質を持っていた事への疑問がミミリアの中で大きくなる。


 油断しないように構えを崩さず問い掛ける。


「お兄ちゃんに教えて貰ったの! こうしたらいいよ~とかちゃんと出来たらえらいね~って褒めてくれるの」


 リリアは両手を頬に当てクネクネしながら照れている。


「そんなことでそれほどの質が手に入るはずがない」


 リリアは顔を伏せる。


「そんなこと?」


 ミミリアの言葉がリリアの触れてはいけない部分に触れた。


 クレスの教えてくれた事をミミリアは『そんなこと』と言ったのだ。


 リリアが言葉を発した後に右手だけに纏っていた白銀色の魔力が膨れ上がる。


 リリアを中心として半径三メートルに半透明の白銀色の魔力が覆う。


『天空の光よ、私に力を貸して』


 リリアが呪文を紡ぐと白銀色のオーラを纏うガラスのような半透明の剣が姿を現す。



『取り消して』



 さっきまでの鈴の音のような声じゃなく淡々とした口調で発せられた声と膨大な魔力量、純度の高い魔力の質でミミリアの背筋が凍る。


「な、なにをだ」


 ミミリアは構えを深くし返答する。


 リリアが顔を上げると蒼の両目が金色に変わっている。


 精霊化オーラルフォーゼだ。


「貴女はお兄ちゃんをバカにした、許せない」


 ミミリアは思ったこれまでの人生の中でこれ程の化物と戦った事があるのかと。


 面白い。


 素直にミミリアはそう思った。


 ミミリアの魔力が膨れ上がり翡翠の瞳が紫色に変わる。


 ミミリアも精霊化を発動させる。


 精霊化は魔力干渉の他に特殊能力をもう一つ使えるようになる。


 ミミリアのもう一つの能力は瞬間移動だ。


「貴様の兄がどれ程の者か知らないがそんな甘い指導でここまで来るはずがない。兄に甘えず指導力がない兄を落ち込ませないように自分で努力したんだろう」


 ミミリアはリリアの気持ちを察して煽る、本気を出させるために。


 嫌な予感が走りミミリアは瞬時に真上へと瞬間移動を発動する。



 ガンッ!



 強烈な音と共にバトルフィールドが揺れる。


 ミミリアが真下を確認するとリリアを起点としてミミリアが居た方向は地面が一直線上に抉れバトルフィールドに張られた魔法障壁にはヒビが入っている。それを引き起こした本人は無防備で正面を見ている。


 顔を上げ、真上に移動したミミリアを視界におさめるとリリアはすぐさま地面を蹴り空中を舞う。


 リリアのオーラルは飛行能力。


 リリアの背中に半透明の羽が生えている。


 白銀色のオーラを纏い半透明の羽から落ちるキラキラと光る魔力の粒子が幻想的でリリアの容姿と合わさってまさに天使のようだ。


 だが標的にされてるミミリアからすると可愛い顔をした死神にしか見えない。


「貴女にお兄ちゃんの凄さがわかるはずない!」


 リリアは瞬時に空いてる空間を詰めると右手に持っている剣で上段から下へ斬る。


 バトルフィールドに施された魔法では緩和できない当たったら致命傷確実な剣をミミリアに躊躇なく放たれる。


 ミミリアは剣が振られる一瞬で瞬間移動を発動していた。


 敵を見失った剣は衝撃波だけを生み魔法障壁にぶつかる。


 ガンッ!


 大きな音と共に魔法障壁にヒビが入った。


 リリアがミミリアの魔力を追って真下に瞬時に移動する。


 瞬間移動して危機から回避したミミリアが胸を撫で下ろす間もなく、気づいたら目の前でリリアが剣を振っている。


 そしてまたミミリアが瞬間移動をする。



 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガガガガガガガガガガガガガガ!

 


 常人の目には見えてない戦闘は二人にしか、いやリリアにしか分からないだろう。


 ミミリアは瞬間移動で逃げるのがやっとだ。


 気づいたらもう剣を振るおうとしているリリアが目の前にいるのだから。


 圧倒的な才能、圧倒的な戦闘のセンス、圧倒的な魔力量、圧倒的な魔力の質、どれをとってもリリアには敵わないと悟る。


 やっとミミリアは気づいた天才なんて馬鹿らしいと、コイツは化物だと。


 もう創造していた剣も消え魔力が切れそうになり最後の瞬間移動をした時だった。


 ミミリアは最後の瞬間移動をして地面に膝をつく。


 リリアはミミリアの所へ瞬時に移動するとクレスの思い出話を聞いた時の事を思い出す。


『いや~アリアスにはめっちゃ世話になったな~』


 末裔の人を傷つけてお兄ちゃんに嫌われるのは嫌だ。




 そしてミミリアに降り下ろされた剣が、首もとでピタリと止まる。



 バリンッ!



 それと同時に盛大な音がしてバトルフィールドを包んでいた魔法障壁がガラスのように割れる。


 そしてリリアが一言。


「取り消して」


「えっ?」


 ミミリアは唖然となる。


「お兄ちゃんのこと」


 ミミリアは何の事かと思ったがリリアに言われて気づく。


「……あぁ、先程のことは取り消そう。すまなかった、貴女の本気を見たくてついな」


「冗談でもお兄ちゃんをバカにしたら許せない! 次はないからね」


 リリアの透き通る声がミミリアの奥深くまで突き刺さる。


「じゃあ、はい」


 リリアは手を伸ばしミミリアを立たせようとする。


「あぁ」


 ミミリアは手を取り立ち上がる。


「これで私の勝ちだね」


「負けたついでに貴女の名前を聞かせて欲しいんだが」


「私はリリア・フィールド、これからよろしくお願いします。ミミリアお姉ちゃん」


 剣の勇者と共に旅をしたアリアスの末裔であるミミリアにはクレスの妹としても仲良くしたいと思うリリア。


「お姉ちゃんか」

 

 ミミリアは王家の第一の姫で独りっ子だ、お姉ちゃんと呼ばれることに少し憧れていた。


「この戦いは始まる前から終わっていたよ、やっと私の家に伝わっている『剣の勇者の隣には誰も立てない』の意味が分かった気がする。アリアス様が何を思っていたのかがな」


 何も出来ないまま負けてしまったのだから戦う前に終わっていた。


「それは気になるよ教えてミミリアお姉ちゃん」


 さっきまでは死を持ってくる死神だったが一度戦いを終えれば天使と身間違えるような笑顔を向けて来る美少女にミミリアは息を飲む。


「あぁ、アリアス様の望んでいた事は剣の勇者の隣に肩を並べる程の力で味方のような人物にいて欲しかったんだろう。だがそれはアリアス様じゃ無理だから『剣の勇者の隣には誰も立てない』と皮肉を込めて伝えたんじゃないかな」


 リリアは真剣にミミリアの話を聞く。


「その時代で世界一の魔術師だったアリアス様がそう言ったのだから今の私とリリアのように圧倒的な力の差があったのだろう」


「じゃあ私とお兄ちゃんみたいに圧倒的な差があると隣に立てないのかな?」


「な、なに! リリア以上の人がいるのか!」


「うん、最高の私のお兄ちゃん」


 リリアは誇らしげに無い胸を張ると金色の瞳は蒼い色に変わり垂れ流していた魔力を引っ込める。


「私、勇者の中でも剣の勇者が一番好きなんだ」


「私だって剣の勇者が好きだ、王家には剣の勇者の物や世間では伝えられてない話を纏めた本が置いてある」


「お姉ちゃん! 私、お姉ちゃんの家に遊びに行きたいよ~」


「城なんだが」


 少しリリアが興奮している。すっかり馴染んだのかミミリアお姉ちゃんからお姉ちゃんへと言い方が変わってる。


「いいだろう今度つれて行ってやる。寮に入ったら私の部屋に来い私が知ってる剣の勇者の話も聞かせてやるぞ」


「わ~い、お姉ちゃん好き~」


 リリアはミミリアに抱きつき喜びを最大限にアピールする。









 後々。


『お兄ちゃん! ミリアード王国には剣の勇者の普通じゃ手に入らない本が沢山あるんだって』


『ま、まさか俺の黒歴史が!』


 ユウ・オキタの頃の黒歴史が書かれた本が王家にあるかもとクレスは戦慄するのだった。






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