天才








 模擬戦が始まり、台座を運び出しながら退場する先生達。


 ミミリアには全員で戦ってもいいらしい。


 模擬戦が始まると手ぶらなミミリアがバトルフィールドの中央に立ち、特待生全員は模擬剣を持って周りを囲むような配置になった。


 リリアはクレスの教えで。


『人相手には一対多数は卑怯だぞ! 正々堂々と一対一でやりなさい。それでも負けそうな時はお兄ちゃんが行くから!』


 わかってるよ、お兄ちゃん!


 リリアだけは離れた場所から見ている。




 まずミミリアが右手を前に出し呪文を口ずさむ。


『漆黒の闇よ、形をなし我が手の中へ』


 手の中から銀色に染まった剣が黒銀のオーラを纏い現れる。


 魔法剣士は実在する剣に魔力を流して戦うか、魔法で剣を創造して戦う二つのパターンが存在する。


 ミミリアは後者のようだ。


 ミミリアが出した銀色の剣から発せられた半透明な黒銀のオーラがミミリアの身体を覆う。


 魔法を身体に纏う技術をオーラルという。


「かかってこないのか? なら一分間動かないでいてやろう」


 かませ犬……アクアがリリアに良いところを見せようと。


「僕がやってやる!」


 アクアは模擬剣を上段に構えミミリアに向けて斬り掛かった。


 するとミミリアの身体がブレて二つに割れる。


「殺ったか!」


 過ぎ去ったアクアが振り返ると傷一つ付いていないミミリアの姿があった。


「な、なに!」


 アクアは特待生ということもあり剣の筋はいい方だがこの模擬戦はミミリアに有利だ。


 ミミリアの特殊能力は闇との同化。触れる事が出来ない特殊能力だからだ。


 普通にセコい。


 リリア以外の特待生達も模擬剣で斬り掛かるがミミリアには傷一つ付かない。


「なら、これでどうだ!」


 アクアが半透明で水色の魔力を身に纏う。


「ほぅ」


 ミミリアが感心したように言葉を漏らす。


 まだ学園でも勉強してない子供が独学だけでオーラルを身に付けるのは才能だけじゃなく相当な努力が必要だからだ。


「これで対等だな」


 アクアは模擬剣にもオーラルを纏わせ斬り掛かるが、またもやミミリアは傷一つ付いていない。


「なんで!」


 ミミリアは疑問顔のアクアに説明する。


「知らないようだから教えてやる。オーラルを対等にするには魔力量と魔力の熟練度? まぁ、重みというか質だな。その二つでオーラルは対等になる。魔法は全てその二つを対等か、それ以上で干渉が出来るようになる。わかったか?」


 オーラルの特殊能力は人それぞれ違うが一定以上、質を上げないと発動出来ない。


 アクアはまだそこには辿り着いてないらしい。


「くっ!」


「お前の剣が当たらないのは魔力量は充分なようだが質が私に劣っているからだ」


 アクアは知らなかったようだ。まだ学園にも入ってない子供だから。


「魔法は質で魔力量を上回れる。だからこそ日々の努力が重要になる。魔力量に自信があっても怠れば魔力が低いものにもやられる。それがこの世界の原則だ」


 魔力量は生まれた時から同じだ、だが質は努力で補える。


「そんなことで負けてたまるか! 俺は剣の勇者みたいになりたいんだ!」


 アクアは貴族だが、メイドにしていたのは入学式で同級生や貴族に舐められないようにする為だ。そういう演技をする時は自分の罪悪感から相手の顔を見ないように決めていた。だがリリアに止められ自分の理想を変えてまで何をやっていたんだと後悔し考えを改めた。


 誰よりも努力し誰よりも平等を志しているが、それを周りに認めされるには力がない。


 その為に憧れている剣の勇者の学園に入り誰もが認める力を手に入れた上で平等に接するように言えば貴族も変わる、世界も変わると信じているからだ。


 アクアの夢は平等の世界。誰もが手を取り合う助け合う世界。力がない奴が叫んでも意味のないことをアクアは既に知っている。平民の母が使用人として家にいるからだ。






 ダリアード家には子供が出来なくて王家だからと無理矢理に僕を母から取り上げた。


 そんな母は出来るだけ傍に居させて欲しいとメイドになったのだ。日々、自分の母が身分の違いで虐めを受けている。だからここで負ける訳にはいかない、勝って強くなって周りを見返し母を救うために。


『母の世界を! 身分の違いでバカにされる世の中を僕が変えてやる!』





 アクアの蒼の瞳。右目だけが青色に変わる。


 オーラルの上位の魔法、精霊化オーラルフォーゼになる手前だ。


 精霊化は天性の才能だ。アクアにはその才能があったらしい。


 精霊化してしまえば魔力の量や質が関係なくなり干渉が出来るようになる。だが未熟な状態からそれをしてしまえば身を滅ぼす危険に繋がる。世界の魔法の原則は対等以上、干渉は出来るようになるが魔力量はあっても質がついてきていない。


 アクアは自力でオーラルの上位に辿り着いた。ここが死の境地で危険があった場合、対等に戦うならそれしか方法がないだろうが今は模擬戦、褒められることじゃない。


 ミミリアはすぐさま止めようと顔つきを変える。


「そろそろ一分たったよな」


 ミミリアがそう言葉を発した直後にミミリアが消える。


「ぐはっ!」


 そしてアクアが壁に激突して気絶したのが同時だった。


 アクアが居た場所にはミミリアが悠然と立っている。アクアはミミリアに壁まで吹き飛ばされたようだ。


 それから周りを囲んでいた特待生達がことごとく何も分からぬまま理不尽にアクアと同じ末路を辿っていった。


 今まで模擬戦で勝てた人がいないのも頷ける。


 特待生と言っても魔力が高く剣や魔術を使っていて子供なりにも大人より凄いという理由で特待生は招待されるからだ。




 リリアは別にクレスと居たら学園には行かなくてもよかったが。


 クレスののんびり暮らしたいという願いを叶える為にこの学園に入る決意をした。


 学園を卒業したらまずお金に困ることはなくクレスと二人で平和に暮らせる。


 リリアは他の学園からも招待されていたが、剣の勇者を志す学園にも入ってみたかったから剣の勇者なクレスの大ファンのリリアはどうせならこの学園に入りたいと思ったのだ。


「最後の一人か。悔いることはない、私も入学式の模擬戦でフレーバー先生にボコボコにされたのだからいずれ君たちも強くなる」


 ミントはこの学園のまだ先生じゃなく在校生の時にミミリアと似たような理由から模擬戦で特待生達をボコボコにしたのだ。


 ミミリアはリリアに向き、すぐに消える。


 そしてリリアの目の前に瞬時に現れると他の特待生にしたように剣を横薙ぎに振るう。


 ミミリアはこれで決着かと誰も相手にならず少し残念な気持ちになったがそれは会場中の全ての人が思っただろう。






 これで終わりかと.....。



 だが、その感情はすぐに裏切られることになる。





「私に攻撃してるの?」



 地面と水平に振られた剣を容易くかわし、疑問を投げ掛ける人物が居たことで。






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