しつれい!
お兄ちゃん待っててね。
私はお兄ちゃんと別れた後に始業式が行われる武道館に行った。
特待生にはお兄ちゃんに教えていない特典が一つだけあるの。
特待生は試験は免除なんだけど先生達との模擬戦に勝てば学園の強制権を一回だけ使えるようになるのが特典。
先生達に勝てた人はいないそうだけど私は剣の勇者なお兄ちゃんに鍛えて貰ったから勝てると思うんだ。
強制権っていうのは学園で出来ることなら何でも一つだけ叶えてくれるって学園からの手紙に書いてあったの。
魔力が無いことで入学できないお兄ちゃんをこれで入学させてあげれる。
お兄ちゃんたぶん魔力がない人は入学出来ないって知らないんじゃないかな? パンフレットを最後まで読んでなかったから、もしかしたら校門の所で落とされてたりしてね。
パンフレットの最後の方に魔力無い人は絶対入学できないって書いてあったもん。
着いてくるのは反対したけど、本当は私もお兄ちゃんと一緒に学園で生活したい! 一緒にいたい。
お兄ちゃんがバカにされるのは嫌だけど私が守ってあげるから大丈夫!
模擬戦は始業式の後に、コロシアムと呼ばれる授業の時に使う場所でやるらしい。
武道館についたけど特待生は試験が免除されるので凄く暇になる。
武道館の特待生の席はすごく豪華だった。椅子もフカフカでいつもここに居たいぐらい。
私の横に黒のドレスに白いエプロンを掛けた無表情のお姉さんが何人もいる。
「そこの君、喉が渇いた」
「はい、かしこまりました」
金髪の男の子がお姉さんにさっさとしろよって言ってる。すごく失礼! 人に物を頼むときは目を合わせてちゃんとお願いしなさいってお兄ちゃんが言ってたもん。
お姉さんがテキパキと飲み物を持ってきて男の子に渡す。
「不味いな~、こんなことも出来ないなら辞めた方がいいよ、君」
お兄ちゃんなら絶対こうするよね。
『リリア、女の子は気品に優雅にだよ、弱いところを見せたらダメだ! お兄ちゃんの前だけは甘えてもいいからね』
お兄ちゃん!
「すいません、よろしいですか?」
私はお姉さんと金髪の男の子のあいだに入る。
「僕に何か御用ですか?」
「すこし失礼じゃないですか? お姉さんに対して」
「コイツはメイドですよ、僕は貴族のアクア・デル・ダリアードです。平民が僕の願いを聞くのは当たり前じゃないで……」
アクアの言葉が止まる。それはリリアの容姿が目に入ったからだ。さっきまでは女の人が近くに来たのは分かっていたが視界には入れてなかった。
リリアは座っていても人の目を引く程の美少女だ。そんな彼女の容姿を見たアクアは、一目惚れしてしまった。
そんなアクアにリリアは強い口調で話す。
「ここは剣の勇者を志す学園です、入ったら平民や貴族関係なく平等に接するのが規則じゃないですか?」
「そうですね、僕が悪かったです。特待生の席に居るということは貴女もエリート組ということですかメイド風情に寛大なお心遣いに僕は感銘を受けました」
「今後は人に物を頼む時はちゃんと感謝の心を持ってお願いしてください」
「はい、僕は貴女のような心が綺麗で気品を持ってる女の人に会ったことがない、妃に欲しいぐらいですよ」
「いえ、私には好きな人がいるので困ります」
「そ、それは誰ですか! 僕より身分が高い人間なのか!」
アクアは今にも襲い掛かりそうな勢いでリリアに迫る。
それを容易く回避して。
「秘密です」
リリアは右手の人差し指を唇の前で立てて小悪魔的な笑みを見せる。
クレスがアクアの状況だったら『教えて~』とリリアに抱き付いていただろう。
「わ、わかりました。ですが貴女の名前だけでも」
「すいません、名乗り遅れました。リリア・フィールドです」
「リリアさんですか」
アクアの心の中ではリリアの笑顔と名前が占めていく。
「ではお姉さんに謝ってください」
「メイドさんさっきのは言い過ぎた、悪かった」
貴族としては平民に謝るなど恥だがリリアからの評価を下げたくはない。
「いいえ、構いませんよ」
お姉さんは無表情で言うとそそくさとその場を後にした。
だがリリアとすれ違う時に笑顔を向けて『あ・り・が・と・う』と、口パクと軽いお辞儀で感謝を示した。
それから試験が終わったのか続々と武道館の椅子が埋まっていく。
リリアも用は済んだので自分の席に戻る。名前が入った椅子だ。特待生は凄く優遇されてる事がわかる。
リリアはクレスの姿を思い浮かべる。
『お兄ちゃん……私もちゃんとやれたよ! あとで話してあげたら喜ぶかな~』
リリアが参加していた入学式も無事に終わり、コロシアムに移動する。
コロシアムは円状のバトルフィールドを囲むように観客席が置かれている。
バトルフィールドの周りには魔法陣が何重にも重なっていて、外への守りや中の者が致命傷を負わないようにする役目がある。
一般で入った生徒達と模擬戦を見に来た先輩達でコロシアムの環境席は埋る。
コロシアムの中央で特待生のリリア達は台座に立つ先生にルールの説明をされている。
ここにいる特待生は十人。参加は希望だったから全員じゃない。入学式の時の特待生の席が十五人だったから五人は参加しないのだろう。
もちろんリリア好きのアクアはいる。
「本当はこの学園一の精霊魔法の使い手、ミント・フレーバー先生が模擬戦をやるはずだったんですけど体調が悪いということなので。急遽この学園一の天才で最強の魔法剣の使い手と呼ばれる在校生のミミリア・リル・ミリアード姫殿下が直々にやってくれるそうです」
男の先生が話終わると観客席が盛大に盛り上がる。
それはそうだろう、ミリアードとは剣の勇者を召喚した国ミリアード王国。しかも召喚したアリアス・リル・ミリアードの末裔にあたる人に会えるのだから。
コロシアムの入場門から颯爽と現れたの長い髪の銀髪をなびかせ、学校指定の紺のブレザーをキッチリ絞めて、赤のリボンが控えめな胸を華かにしている。赤と白のチェックのスカートから覗く白い肌と太ももは黒のニーハイソックスとの絶対領域が眩しい。
吸い込まれそうな翡翠の瞳に、気の強そうな雰囲気を出していて、顔が整っているので気品や優雅さに拍車をかけている。
リリアも明日からこのブレザーを着る事になる。男は上下紺で赤のネクタイとシンプルな作りである。
このブレザーは魔道具の一緒で魔力を通すと魔法や物理的な攻撃への耐性が上がる。
ミミリアが入った瞬間に静けさを取り戻した会場はミミリアがコロシアム中央の台座の上に登ると会場から爆発したかのような歓声があがる。
「ミミリア・リル・ミリアードだ、ルールは簡単! 私に少しでも触れたら勝ちにしてやる」
ハンデがないとつまらないだろと言い残して台座から降りる。
男の先生が台座に立ち。
「これより模擬戦を開始します」
この会場に居る者は知らない。
リリア・フィールドが誰に天才と言われてるかを。
最強を欲しいままにしていた剣の勇者は一般的な天才でも凡人と変わらない。
そんな剣の勇者が天才という人物が一般的な天才と比べられるはずがない。
「お兄ちゃん! リリア頑張るね」
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