精霊



 これで俺も入学だ~!


「すいません剣の勇者様」


「今はクレスだ、剣の勇者様はやめてくれ」


「はい、クレス様」


 ミントは俺が剣の勇者と分かってもこの姿については追及しないみたいだな。


「敬語も様付けもやめてくれ」


「そ、それは無理です! 私の勇者様ですから! それでですね」


 ミントはそれから強引に話を進める。


 ミントの話を聞く限りこの魔法を斬る試験は魔力が無い奴を追い払う建前な訳でクリアしたからって入れないらしい。


 はぁ?


「入れないっていうかですね、クリアした前例がないんですよ」


 俺はミントの言葉に無言になる。


「……」


「剣の勇者様っていうことを秘密にして魔法を剣で斬るなんて誰も信じてくれませんし」


「……」


「秘密にしないなら入学は簡単でしょうけど普通の学園生活は送れないでしょうね」


「……」


「魔力無しで入学したって時点で普通の学園生活は送れないと思います」


 平和に生きたい俺だが、妹様にも迷惑がかかるような事はしたくない。どちらにしても妹様に少しでも迷惑がかかると思う。


 俺は一つやりたくはなかった案を出すことにした。


「魔力があったらいいのか?」


「はい、あとですね……」


「ミントの精霊を呼んでくれ」


 この手はあまり使いたくなかった。契約した精霊を呼ぶだけならそんなに魔力を消費しないしな。


「わかりました」


 ミントが右手を前にかざす。


『火の精霊よ、我に答えよ』


 小さい人の形をした火がミントの掌から現れた。


「おい精霊、精霊界に戻ったらどいつでもいいから精霊神を呼んでこい。ユウ・オキタ、剣の勇者が呼んでると、わかったか?」


 火の精霊は何度も頭を下げて消える。


 その数分後に空から巨大な火の柱が降りて共に火の精霊神が現れる。


 火の精霊神は、長い髪も、瞳も、燃えるような赤色で胸もデカイしスタイル抜群、少しつり目で顔も整ってる美人なお姉さんだ。


 ミントは呆然と立ちすくんでいる。


「火の精霊から剣の勇者様がいると言われたのだがそこの人よ、見かけなかったか?」


 火の精霊神が俺を見下しながら問いかける。


「おいおい昔はそんなこと言わなかったじゃないか」


 精霊神の顔が驚愕に染まる。


「貴方が剣の勇者様ですか?」


「まぁな、精霊は魔力で人を判断できるんだろ?」


 火の精霊神が俺に近付き。


「会いたかったよ~ユウくん」


 抱きついてくる。


「離れろ~」


「あっ! 皆んなにも知らせないと」


「いや、お前だけに来て欲しかったんだ」


 炎の精霊神の白い肌が紅くなっていく。


「私だけ?」


「そうだ、だから皆んなには言うな」


 精霊神が全員来るなんて問題しか起きないからな。


「わかったよ~」


 俺は校門にある魔力測定器に右手をかざす。


「俺の手にアカメの手を乗せて水晶玉に魔力を送れ、手加減しろよ」


 精霊神達の名前はむかし俺が適当につけた名前だ。


 精霊神達は皆んな名前がなかったのでつけてあげたら喜んでたな。火の精霊神はアカメ。


「うん!」


 俺の身体を通しながらアカメの魔力が測定器に入る。


 魔力測定器『99999』


 魔力測定器『クレス・フィールドの入場を認める』


 入場を認めるか。


 ある程度の魔力がないと入ることも出来ないから魔力無しじゃ入学もできないのか。


「え~と、ミント? これで合格したって事でいいのかな?」


 最初からこうしとけば良かったんじゃね? 周りに精霊使いがいなかったから無理か。


 俺が声をかけるとミントは再起動して近寄って来る。


「はい、この測定器の限界数値ですね。さすが勇者様です」


「目立ちたくないから最底辺で合格した扱いでいいからな」


 校門を潜ると身体に違和感を感じる。


 そんなことより俺は妹様の近くで悪い虫がつかないようにするのが仕事だ。あんなに可愛いんだ! 男は黙ってないだろ。


「はい、クレス様がそう言うのなら」


 ミントがあとは全部やってくれるそうなので寮のカギを貰い寮に行くことにした。




 精霊神のアカメは帰っていいと言ったのにずっとついてくる。


 案内された寮に着くと、男女は別れていて寮も反対側だ。


 今日は入学式と試験を兼ねており、明日から学校が始まるらしい。


 色々と疲れたのでミントと別れて寮に戻って寝ることにした。


 寮はホテルのような作りで一人一人部屋が用意されている。エリートでしかも貴族も来るから金は掛けてるんだろ。


 寮の中は独り暮らしには大きめの部屋だった。部屋にはトイレやキッチンや風呂など至れり尽くせりだ。寮には食堂もあり何時でも食事をすることが出来るらしい。


 部屋を一通り探検して寝室のベッドに入るとアカメが俺と一緒の布団に入ってくる。


「アカメ帰れよ」


「久しぶりに一緒に寝たいよ、ダメ?」


 俺はアカメの上目遣いにやられて一緒に寝ることにする。


 俺はこれに弱いな。


 精霊は自身の魔力切れや呼び出した術者の魔力切れ、寝るなどの戦闘不能状態になると精霊界に飛ばされる。


 横にいるアカメは寝息と共に光の粒子になり始めている。


 普通の精霊は精霊界とこの世界を繋ぐルートを術者の魔力で繋げて呼び出すのに対して精霊神は自身の魔力だけでルートを繋ぎこちらに来ることが出来る。


 俺が勇者だったころ次元の裂け目に落ちて精霊界に行き、精霊神達と少しのあいだ一緒に生活して仲良くなった。精霊神達の力を借りてこちらの世界に戻ることが出来た。


 次元の裂け目が精霊界に繋がってなかったら俺は次元の狭間で死んでたな。


 精霊達は肉体を持たない。魔力そのものに精神が宿った存在だから普通の術者の力で繋げてあげればすぐに来れる。


 だが術者が繋げてあげないと干渉すらできないこの世界に無理矢理これる精霊神は規格外だが。


 次元の狭間では人間は肉体があり戻る時には相当な魔力を使うらしい。人間がいくら魔力を繋いでも普通は戻って来られない。


 力を合わせることのない相反する属性の精霊達が俺のために力を合わせてくれて擬似的に空間を空けて? 歪ませ? なんかそんなことを言ってたような気がするが、無事に戻ることが出来た。


 精霊神達には本当に感謝している。だから俺が勇者だったころから我儘ぐらいは何時も聞いてやっている。突然来るしな。


 精霊神達は勝手に俺を契約者として見てるらしい。


 正式な契約じゃなく契約者と見ているだけだ。


 精霊契約は、まず精霊魔術の術式に魔力を込めると自分と相性のいい相手が勝手に召喚されて、精霊に認められると自分の魔力を対価に力を貸してもらえるようになる。


 俺が契約者なら力を借りっぱなしの状況で対価を払ってないのと同じだな。


 その代わりこっちからは誰かの精霊に頼むか、突然来られるかしかないわけだ。魔力が無い俺が自分で呼ぶことは出来ない。




 アカメの幸せそうな寝顔が透けていき、キラキラと消えていく。


「ユウ君、もう……」


 アカメの寝言は空間に溶けてなくなる。


『どこにも行かないで』


 アカメが消えていくのを見届けて、俺は身体が急に重くなり目をつむる。




 寝てる間に妹様が俺の為に頑張っていたらしい。



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