ついていくもん







 十二才になった俺は、後悔の真っ只中にいる。


 その原因は妹様が天才と呼ばれる人種だったことだ。


 剣の勇者に憧れる妹様に剣の基礎と魔術基礎を教えてしまったことだ。


 僅か一年で親父を越える魔法剣士になってしまい。二年でこの国の魔法剣士では最強なんじゃないかといえる程に。三年で他の国にある天才達が集まるといわれる魔術剣士の学園に特待生として招待される事になり、十二才になった今年にその魔術剣士の学校に行くことになった。


 十二才になる頃には俺と互角に打ち合う位に妹様は強くなっていた。


 打ち合えるっていっても可愛い妹に力は出せない、俺の手加減を通り越して生温い攻撃を互角に打ち合える位には強くなっていた。


 しかも最近……妹様は魔法を使えない俺に尊敬の眼差しを送って来なくなり、俺は教えなければ良かったと絶賛後悔中です。


 修行の時には魔法も使ってこなくなった。


 理由を聞いたら魔法が当たって怪我したら嫌だからだそうだ。


 俺は全力の手加減をしている中、妹様も手加減していたそうだ。さすが兄妹だね。でも魔法一度も掠ったこと無いんだけど……いや掠った事はあるな! 一度だけ。


 リリアの魔法が一度も当たらないと涙目になった時にわざと大きい魔法を食らったんだが。


 あの時からかな? リリアが魔法を俺に撃たなくなったの。


 それにしても妹と別れるだと! マジかよ!


 離れる事が嫌なので俺も一般の試験で妹様に着いて行くことにした。


 妹には学校側から来てほしいということで特待生みたいな扱いを受けている。




 これは入学試験前日の事だ。


「お兄ちゃん、ついてこなくていいよ」


「絶対に行くもん」


「お兄ちゃん、魔法使えないんだから行ってもバカにされるよ」


「絶対行くもん」


 魔力がない人はそうそうに入学を諦める。剣の勇者に憧れる奴も例外ではない。


 魔術師や魔法剣士と比べると魔力がない奴は実力に大きな差が生まれるからだ。


「お兄ちゃんがバカにされたら私嫌だもん」


「絶対行くもん」


「ついてきたらゼッコウだから!」



「グハッ!」


 俺は血を吐きながら倒れた。


 今のは邪神の攻撃より強い攻撃だった。


「大丈夫、お兄ちゃん!」


 リリアが涙目になって俺を心配している。


 尊敬の眼差しを送って来なくなった代わりに熱っぽい視線を送ってくるようになった。


 よく分からん。


 俺は必死でリリアに頼み込む。


「俺はリリアと離れたくないんだよ」


 今もリリアは涙目になりながら頬を朱に染めている。


「勝手にしてよ、でもお兄ちゃんは……」


 リリアがボソボソ言っている。


『最強の剣の勇者なんだから』






 そしてメディアル王国を出て、馬車で六時間、リリアの隣に座り、リリアにちょっかいを出して『お兄ちゃん嫌い』と言われて、走ってる馬車から飛び降りようとしている所を、何度も、何度も、リリアに『嘘だよ! 大好きだよ~』と後ろから抱きしめられながら引っ張られて思い留まり今にいたる。




 フィーリオンという国にある天才達が集まるフィーリオン剣士学園についた。


 寮などは完備されていて入学したらそこに住むことになる。


 特待生のリリアは招待状を見せて一般の行列をスルーして入っていく。


「お兄ちゃんまたね」


「リリアは俺と離れて寂しくないのか?」


「寂しいけど、お兄ちゃんより強くなってお兄ちゃんを守るの! のんびり平和に過ごしたいんでしょ」


 俺はいつも平和に暮らしたいと言っていたが、強くなって俺をのんびりさせたいだと! 良い妹を持って俺は幸せです。


 リリアと話した後に行列に並ぶ。


 すぐに俺の番が来て、手を魔力測定の水晶玉に乗せるだけだったが。


「貴方は失格です」


 有り得ない言葉を聞いて、俺は固まった。


 そして再起動する。


「はっ!」


 学校の入学試験で……。


 俺は落とされた。


 えっ!


 学校に入る前に落とされたというのが正しい。


 天才達が集まる学校だ。魔力測定で【1〜9999】までは見込みがないと言われて最初から落とされるらしい。


 因に俺の魔力は……水晶に映る数字を見ると【10】だった。


 魔力を持っていないといわれる人でも最低【100】はある。


 魔法式を作る、魔法式に魔力を注ぐ、現象させる、操る。という程の魔力がないんだ。


 俺は早速野次を飛ばす。


「おいおい、魔力ないことで落とされるとか聞いてないんだが?」


 だが女の人は、はぁっとため息を吐いて語り出す。

 

「またその話? 何度も、何度も! 当たり前じゃない! 剣の勇者に憧れて来たのは魔力を見れば分かるけど、そこまで世界は甘くないのよ! 剣の勇者が例外なだけ」


 だが俺は譲らない。


「じゃあ実力は剣の勇者と互角な奴もいるかも知れないじゃないか!」


 俺は周りを見渡すと魔力が無くて落ち込んでた奴等が顔をあげる。


「そこまで言うなら試験、やってあげるわ」


「話がわかるな!」


「この試験をクリアしたら入学を認めてあげる」


 私の名はミント・フレーバー、ここの教師よ。と続ける。


「試験は簡単。そこにある魔法を纏っていない状態の模擬剣で私の魔法を切ってみなさい」


 毎回俺達みたいな魔力ない奴等が居るんだろう、対策も万全か。


「魔力無しでここに来たんだから剣の勇者に憧れているんでしょ? なら魔法を斬れないと話にならないじゃない」




 周りの奴等はそれを聞いて帰って行った。


 周りを見ると俺一人になってしまった。


「そんなんで入れるの? 俺は剣の勇者だぞ」


 力を隠して妹と別れる? 冗談だろ?


「剣の勇者? いつも居るのよね貴方のようなバカ、家族の人達はそれも教えてあげなかったのかしら」


「はっ? 家族は関係ないだろ」


「なに、まさか怒ってんの? 実力もないのに送り出した家族も同罪じゃない」


「今からその実力を試すんじゃないのかよ!」


「魔法付与なしの模擬剣で魔法が斬れるはずないじゃない」


「ミント、俺がこの試験に合格したらその言葉取り消せよ」


「ミントって言わないでよ! まぁ、クリアしたら取り消してあげる」


 俺は校門の隅に置いてある模擬剣を手に取る。


「魔法付与はダメよ、あぁでも魔力10の貴方ができる魔法じゃなかったわね」

 

 ミントの言葉を聞き流しながら校門から離れて剣を構える。


「お前美人なんだからもうちょい言葉選べよ」


 ミントは明るい緑色の髪に赤の瞳、少しお転婆な雰囲気だが顔は整っていて、スタイルもスレンダーなのに出るところはちゃんと出ている。


 少し幼い見た目だから美少女がしっくりくるな。


「美人とか言わないでよ! いくわよ」


 ミントが俺に右手をかざして叫ぶ。


『フレイムランス』


 初級の槍状になった炎が俺に一直線に向かってくる。


 俺の目の前に槍が来た瞬間に魔力の継ぎ目を剣で斬る。


「消えた!」


 俺の動作が見えなかったようだ。


「これで試験クリアか?」


「まだよ!」

 

 ミントはかざした手に魔力を込める。


『竜の怒りを持って邪なる物を排除する』

 

 熱くなりすぎしゃないですか? 教師だろ! それは超級魔法じゃないか!


『フレイムブレス』


 ミントの叫びと同時に竜のブレスが放たれる。


 人を飲み込む火の玉が迫る。


 俺は踏み込むと同時に剣でフレイムブレスの魔力の継ぎ目を消していく。


 一瞬で魔力の継ぎ目を切るとフレイムブレスが目の前から消える。


「また消えた!」


「これで試験クリアだよな?」


「まだよ! こんなことあるはず」


 ミントは両手を俺に向けて構える。


『混沌の頂きに光が差す』


 それも超級だろうが! 普通の人に使う魔法じゃないって。


『ジオ・グラビアス』


 ミントの叫びと共に俺の身体が鉛のように重くなる。


「これで逃げられないでしょ」


 ミントがまだなにかをやる気だ! いや、俺を殺る気だ!


『火の精霊に言霊を告げる、我の契約の元、敵を灰に変えよ』


 精霊魔法だと! ミント素質ありまくりじゃん。


『ファスリナ・ブレイブ』


 人間よりデカイ鳥を模した炎が俺に襲いかかる。


 これはやばい! 消さないと不合格になる!


 食らえば不合格だからな。


 避ける事は簡単だが、距離を取っても駄目かな?


 奥の手を使うか。


「おい、精霊! 俺に攻撃するのか?」


 迫ってくる炎の鳥が止まる。


「もし、ここで消えるなら精霊神になにも言わないが、俺を傷つけると後で怖いぞ」


 火の鳥なのに汗のように炎が垂れる。


 後ろを振り向き主に頭を下げると、次は俺の近くで頭を下げる。


「えっ?」


 ミントが呆けた顔をしている。


「懸命な判断だな」


 俺は剣で鳥の頭を斬ると精霊はすぐに消えた。


「えっ? 精霊魔法が消える? 精霊魔法は同等以上の魔力で打ち消すか、同等以上の魔力を剣に纏わないと斬れないはず」


 ミントがブツブツ言ってる間に重力魔法の効果が切れる。


「まだやるのか?」


「私は認めない! でもさっきの言葉は言い過ぎだったと思うから撤回してあげる」


「ミントいい奴だな」

 

「最後よ、これを消したら認めてあげる」


『光と闇を纏いし炎よ、私の気高き道を邪魔する者に聖と邪の浄化を!』


 合成魔法の神級だと! さっきから思ってたけど強い魔法使いすぎな。


 魔法は神級、超級、上級、中級、初級だぞ。その中でも上位の魔法を普通の人に使うなんて殺りに来てるとしか思えない。


『ホーダール・フレイン』


 光と闇を纏う一つの太陽が上空から降ってくる。


 しかもミントの上空でだ。


「えっ? なんで?」


 俺は駆け寄りながら呟く。


「お前魔力消費しすぎ、頭上に転移させる魔法式に魔力を注げなかったんだろ」


「嫌だ、こんなの当たったら死んじゃう」


 おいおいミント、その死んじゃう魔法を何回も俺に向けて発動してたんだぞ。


 ミントが手を上に向けて。


『炎の精れ……』


 ミントが精霊魔法を唱える前に魔力が底をつく、ミントが倒れそうになるのを近くに来ていた俺が抱き抱える。


「なに、すんのよ」


「黙ってろよ。ミントは俺が助けるから」


 俺は模擬剣を空中に放る。


 一瞬で模擬剣は灰になり、その灰すらも飲み込む魔法。



 しょうがないよな。


 精霊神をパシるか? 


 いや、そんな時間はないな。


「神級でしかも、合成魔法とか厄介だな」


 神級魔法に継ぎ目は無い、継ぎ目も無くす程に膨大な魔法式の構築と膨大な魔力を注がないと発動しないからな。


 精霊魔法は継ぎ目がない、あれは生きてる魔法みたいなカテゴリだ。


 合成魔法も魔力の継ぎ目がない、他の属性同士を合わせて使うから継ぎ目が無くなるんだ。


 


『リミテッド・アビリティー』


 何も無い空間に手を入れて、金に煌めくオーラを放った黒剣を取り出す。


「内緒だぞ」


 ミントが俺を見ながら惚けている。


「はい、剣の勇者様」


 この学校は魔術じゃなくて剣士と名前があるんだから最強を欲しいままにした剣の勇者に憧れて入る奴が多いのも頷ける。


 リリアに送られて来ていた、この学校のパンフレットに書いてあった。


 ミントも剣の勇者のファンだったって事だな。


 絵本でも剣の勇者と並んで言われるのが剣の勇者が持っている剣だ。



 リリアが図書館に行く度に借りてきた剣の勇者の本にも黒剣の事が書かれている。


 剣の勇者は金色に煌めくオーラを纏う黒の剣を扱うという。その剣はただ壊れないだけの剣だ。どんなに使っても刃こぼれ一つしない。


 この剣は見た目だけだ! 理不尽を切り裂く剣なのに、ただ切れ味がよく、壊れない剣。


 勇者の能力で一番弱いんじゃないかと思う。


 だが俺が全力で振っても壊れない剣だから凄く便利だ。


 普通の剣じゃ優しく振っても途中で壊れる。だからいつも手加減を通り越して生暖かい攻撃にしないといけない。


 頭上にある合成魔法に軽く黒剣を横に振るう。


 一太刀の剣圧で合成魔法が一瞬にして消える。


「勇者様カッコいいです」


 黒剣を頭上に放ると黒と金のエフェクトを残しながら消えていく。


 これでも邪神を倒した人なんで。



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