第6話(1/3) 言い訳はいらないんだけど
◇ ◇ ◇
私たち3人はいつも通りオカルト研究部の部室に集まっていた。
といっても特別することはなくて、だらだらとした空気が流れる。
ただ、昨日、陽大に無理やりプレゼントのことを聞き出してしまった私はどうにも気まずい思いが拭えずにいる。
せっかく陽大は私を喜ばせるために内緒にしようと頑張ってくれたのに、みっともないことをしてしまった。
「……だから気にするなって言ってるだろ」
少し間隔を空けて座る陽大は、やっぱりそんな風に言ってくれる。
「そうは言っても……」
「亜月がそんなに辛気くさいとこっちの気も滅入るんだよ。考えてることは全部伝わってくるんだからな」
「だけど……」
陽大が慰めようとしてくれても、つい声を落としてしまう私にセアラが視線を向けてきた。
「あづっちー、昨日のことなら気にしないでいいよー」
ペロリとキャンディーをなめて言葉を継ぐ。
「だってー、中野っちはあーしがブラを買ってる間に
「はっ、
私にビシッと指差された陽大はセアラに抗議する。
「セアラっ、誤解を招くようなことを言うなよっ!」
「えー、事実なんだからしょうがないじゃーん」
「別に俺は種井さんと楽しくなんてしてないし、ただたまたま会ったからあいさつしてただけだし。それにブラを買ったのはセアラの都合だろ?」
「そーかなー? 店から出た時、中野っちは鼻の下をだらしなく伸ばしてたよー」
「そんなことはないっ!」
ふーん、そうなんだ。
今朝から陽大が昨日の話題を避けてたのは、私を気遣ってのことだと思ってたのに。
昨日のことを思い出すと、紗羽ちゃんのことを考えちゃうからだったんだね。
「残念だな」
私がジトっと
「だから、違うって! 誤解だから」
「へーそうなんですねえ」
「昨日の話題を避けてたのは、亜月にプレゼントが何なのか知られたくないからなんだって。もうプレゼントを贈ること自体はサプライズじゃなくなったけど、せめて中身だけは内緒にしておきたいんだよ」
陽大は必死になって言うけれど、
「そんなに紗羽ちゃんといるのが楽しいのなら、私じゃなくて紗羽ちゃんのためにプレゼントを買ってあげたらいいのに」
気まずい思いをしていたことの憂さ晴らしをするかのように、私の口はそんな言葉を発してしまった。
「…………」
黙り込む陽大を見て、私はようやく自分の失態に気付く。
「ごめん、言い過ぎた」
「いや、俺の方こそ悪かった。何があったかを最初から全部話してればこんなことにはならなかった」
「別に全部話してなんて言ってないじゃない」
「それはそうなんだけど、とにかく悪かった」
「じゃーこれでー、全部丸く収まったってことでー」
セアラが声を上げたのをきっかけに部室にはいつもの空気が戻ってきた。
そうしてゆったりと流れる時間を断ち切ったのは、またしてもセアラ。
「あっ、これいいじゃーん」
スマホの画面をいじっていた手を止め、おもむろに声を弾ませる。
「ねー、あづっち、今度の週末に中野っち借りてもいいー?」
「いや、待て。俺は借りられる対象ではないし、亜月にそれを許可する権限もないぞ」
突然自分の名前が出てきたことに陽大が口を挟む。
が、セアラはそんなことお構いなしに言葉を重ねる。
「いいでしょー。ちゃんと返すからさー」
「別に私に返すものでもないんだけど」
「じゃあー、いいってこと?」
「ちゃんと説明してくれる?」
「あーっ、そうだねー。まずはこれ見てー」
そう言ってセアラは私と陽大にスマホの画面を示す。
「今週末限定 スイーツ食べ放題実施決定」と題されたとあるウェブサイトの記事が表示されていた。
「これに行きたいってこと?」
「そだよー」
「だったら私と行けばいいんじゃないの? っていうか私も前からこの店のこと気になってたから行ってみたいんだけど」
「うーん、それじゃーダメなんだよねー」
「どうしてなんだ?」
もっともな陽大の疑問を聞くと、セアラはスマホの画面に指を滑らせる。
「ここ見てー」
すぐに再び画面を私たちの方に向けた。
さっきの記事の下の方。記されていたのは「今回は本格実施の試行としてカップル限定とさせていただきます」の文言だった。
「だからー、中野っちを貸してって言ったのー」
「別に俺じゃなくてもいいだろ? ほかに誰か誘えよ。セアラの誘いだったら、ほいほいついていきそうな奴は結構いるぞ?」
「それはめんどいじゃーん」
「そんな理由で俺を連れ出そうとするなよ……」
「まぁまぁ、というわけでー、あづっち、いいでしょー?」
セアラは両手を合わせて私に頼み込んでくる。
陽大を連れて行くのに、私の許可は必要ない。
休みの日に陽大が別の女の子と遊びに行くのには複雑な思いもある。
でも私と陽大は別に付き合ってるわけでもないし、出かける相手がセアラだったら問題はない気がする。
》ほんとにいいのか?《
嫌って言ってほしいの?
》そういうわけでもないんだけど……《
じゃあいいんじゃないの?
》亜月がそう言うならいいけど《
こっそり打ち合わせを終えて、セアラに「いいよ」と告げようとしたのだけど
「あづっちの心配も分かるよー。だってあーしはこれだからねー」
そう言ってセアラは豊かな胸元を両手で揺さぶってみせる。
「なっ……」
顔を真っ赤にする陽大をチラッと見て含み笑いして、
「中野っちは巨乳好きだからー、あーしに惚れちゃうかもしれないけどー、ちゃーんとあづっちに返すからー、安心してよー?」
「だからっ、別に俺は巨乳好きってわけじゃないって言っただろっ?」
「でもー、これだよー?」
セアラはもう一度胸に手を当ててみせる。
「やめろって!」
陽大は慌ててセアラから顔を背ける。
》見たいけど、見たら亜月からなんて言われるか分からないだろっ!《
へー、ほー、ふーん。
…………。
やっぱりおもしろくない。
「いいでしょー」
セアラは私に向かって再び手を合わせる。
「私がダメって言ったらどうするの?」
「うーん、それは困っちゃうなー」
私がそんなことを言うとは思っていなかったのか本気で悩むセアラ。けどすぐに「いいこと思いついちゃったー」と表情を華やがせる。
「明日のクラスマッチでー、中野っちがハットトリックを決めたら、中野っちはあづっちと一緒に出掛ける。でー、もし決められなかったらー、あーしと一緒に出掛けるってのはどうかなー?」
「ハットトリックを決めたら私と行くの?」
「だってー、あづっちも行きたいんでしょー?」
「そうだけど……」
「だったら、それでいいでしょー?」
「うん……じゃあいいよ」
「じゃー、そういうことでー」
セアラはうんうんと
「ちょっと待て。俺の意思はどうなるんだ?」
自分のことなのに蚊帳の外に置かれた陽大が口を挟むが、
「はぁっ? そんなの
冷たく告げるセアラに、「いや、ない」とおずおず引き下がった。
》どうしてこんなことになった?《
私にもさっぱりだ。
納得いかないというか、セアラのペースに丸め込まれて変なことになってしまった。
けど陽大がハットトリックを決めたら……。
それは――楽しみな気がする。
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