テレパシーの両片思い~俺と幼馴染のあいつはお互いの心が読めるけど絶対に告白しない~

秋野トウゴ

第1話(1/3) ルールは大事だよね

◆   ◆   ◆


 俺には好きな女の子がいる。


 隣の家に住む同い年の花棚けだな亜月あづき


 物心ついた頃からお互いを知る、いわゆる幼馴染ってやつだ。

 身長は157センチ、胸は……まぁ、本人の名誉のためにもスレンダーな体型とでも言っておこう。

 ハーフアップにしている亜麻色のミディアムヘアーはきれいだし、いつも着けているちょっと大きめのピンクのリボンも似合っている。

 まん丸くて大きな瞳はいつも輝いているし、鼻筋はしゅっとしている。

 なにより笑顔がいい。亜月の笑顔を見ているだけで、ご飯を何杯もお代わりできる自信が俺にはある。


 もちろん、そんな見た目だけに惹かれて好きになったってわけじゃない。

 昔からの付き合いということもあるけど、俺が何か楽しいことをしたいって思ってる時には付き合ってくれるし、困った時には気遣ってくれる。

 健やかなる時も病める時も一緒に過ごせる。

 ……って、それじゃ結婚するみたいだな。

 自分で考えてて、恥ずかしくなってきた。

 そもそも、俺と亜月は交際してるわけじゃない。

 だけど、俺は亜月も俺のことを好きだってことを知っている。

 勘違いでもないし、うぬぼれなんかでもない。確信を持って、そう言える。

 なぜなら、


 ――俺と亜月はテレパシーでつながっているからだ。


 つまり、俺の考えていることは亜月にすべてお見通しで、逆に亜月の考えていることを俺は全部把握できる。


 テレパシーで俺と亜月がつながるようになったきっかけは、小学5年生の時の出来事。

 俺と亜月は同じサッカークラブに通っていた。

 ある日のミニゲームの最中。宙に浮いたボールをヘディングしようと競り合った際に、頭を激しくぶつけ合ってしまった。

 それからだ。

 最初はびっくりしたよ。

 少し離れた所にいる亜月の声がはっきり聞こえてきたんだから。

 不思議そうな顔で亜月を見ていると、あっちも変な顔でこっちを眺めていた。

 数日経って、やっとお互いの考えてることが伝わってるんだって気付いた。


 でも、その頃は良かったんだよ。


 別に亜月のことを女の子と意識してるわけじゃなかったし。

 小学生の時は、一緒にサッカーをしていたことから分かってもらえると思うんだけど、亜月は男勝りの性格で、見た目も美少女と言うよりも美少年って感じだった。髪も短かったしね。

 でも、中学生になってから亜月は変わった。

 月並みな表現しかできない自分が残念だけど、さなぎがチョウになったみたいに、一気にかわいくなった。それこそ学校のアイドルと言っても差し支えのない存在になっていった。

 男子に告白されているのを見ることも珍しくない。その度に胸がシクリと痛んで、俺は亜月のことを好きなんだってようやく気付いたんだ。


 じゃあ、さっさと告白しろよ、と言われるかもしれない。

 だけど、男女平等の時代に男から告白しないといけないなんておかしくないか?

 女性の社会進出が声高に叫ばれるこの時代に、男だけが勇気を出さないといけないなんて話はない。

 お互いの心が読めるから、俺は亜月も俺のことを好きだって当然知ってる。だったらあっちから告白するべきだろう。

 それに、俺から告白したら一生尻に敷かれるのは明らかだ。

 子供のころからそうなんだよ。亜月は俺のことを子分かなんかだと思ってる。

 それは見た目が変わってからも変わらない。

 だから、俺は待っている。


 ――亜月の方から俺に告白してくるのを。


 中学校までは、それで良かった。

 家は隣同士だから、もちろん顔はしょっちゅう合わせていたけど、学校では幸か不幸か一度もクラスは一緒にならなかった。だから程よい距離を保てていた。

 でも、明日に入学式を控える高校生活では、そうはいかない。

 通う高校が同じというのは、まぁ、仕方ない。家から近すぎず遠すぎない学校を選んだ結果、こうなった。

 ただ、俺と亜月はともに学年に1クラスしかない文理科に入ることになっている。ってことは、同じクラスになることが既に確定している。


 これは、まずい。


 学校でも同じ時間を過ごすことになれば、亜月の顔を見る度に、俺は『好きだ。俺の彼女になってほしい』ってどうしても頭の中で考えてしまうことになるだろう。

 それは当然、亜月にも筒抜けだ。

 そんなことになれば、何と言われるか分かったもんじゃない。


『へぇー、そんなに私のことが好きなんだ? 告白してくれたら考えてあげるよ?』


 なんて、あの笑顔で言われたら俺は、そのあとに待ち構えていることも気にせずに告白してしまう気がする。

 だから、このまま入学式を迎えることはできない。

 俺はスマホを手に取り、メッセージアプリを起動した。


◇   ◇   ◇


 私には好きな男の子がいる。


 隣の家に住む同い年の中野なかの陽大ようだい


 小っちゃいころからずっと一緒の時間を過ごしてきた幼馴染ってやつだね。

 身長は175センチぐらいなのかな? 体形はまぁ普通。

 髪型はそんなに気にしてないみたいで、ざっくりとした短髪。

 見た目は取り立てて良いってわけじゃないね。

 でも、時折見せるはにかんだような笑顔にはドキっとさせられちゃう。

 心臓に悪いから、不意打ちするように、その笑顔を見せるのはやめてほしい。


 私が陽大を好きな一番の理由は、一緒に過ごしてて楽しいからなんだ。

 お互い気心が知れた仲だからっていうのもあると思うんだけど、それだけじゃない。

 外に遊びに行ったら同じことに笑い合えるし、部屋でまったり過ごしてる時は無言でも全然気にならない。

 ……って、無言でもいいって何だか倦怠期の夫婦みたいだよね。

 自分で考えるだけでも、ちょっと恥ずかしいな。

 そもそも、私と陽大は付き合ってもいない。

 けれど、私は陽大も私のことを好きだって知ってる。

 陽大の思いを誤解してるってわけじゃないし、自信過剰ってわけでもない。

 何でかって言うと、


 ――私と陽大はテレパシーでつながってるからなんだよね。


 要するに、私の考えていることは陽大に全部伝わってるし、逆に陽大の考えていることを私はすべてお見通しってこと。

 ただ、いつでもつながってるってわけじゃないんだよ。

 このテレパシーが有効なのは、お互いの姿が目に入る範囲にいる時だけ。

 今みたいに自分の部屋にいる時には、この不思議な力は働かない。


 それには、ほんとに助かってる。


 陽大のことは好きだけど、いつでも頭の中を覗かれてるって思うと、それはそれで耐えられない気がする。

 けど私の心が読めているんだったら、陽大にはもっと男らしい行動をしてほしいと思うこともあるんだよね。

 自分で言うのも変な話だけど、私って中学生のころは結構モテてたんだよ。

 男の子から告白されることも珍しくなかった。

 私が好きなのは陽大だから、OKすることはなかったけどね。

 そのことは、陽大も分かってるはずなのに、告白してきてくれない。ほんとにまったく男らしくない。


 なら、自分から告白すれば、って言われるかもしれない。

 でも、そんなことはできない。

 だって、陽大は私の彼氏にしたい人ランキングで1位だけど、それは暫定だから。……っていうのは、言い訳。


 ――陽大が男らしさを見せてくれるのを私は待ってるの。


 中学生のころはそれで、良かったんだよ。

 3年間一度も同じクラスにならなかったから、ずっと付かず離れずって感じだったんだ。

 でも、問題は明日から始まる高校生活。

 私と陽大は同じクラスになるのが、確定している。


 これは、良くないね。


 教室でも毎日顔を合わせることになれば、陽大の顔を見る度に、『やっぱり陽大が好き。付き合ってほしい』って、どうしても心の中で願ってしまう。

 それは、当然陽大にも伝わる。

 そんなことになれば、何て言われるか分からない。

『ふーん、亜月は俺のことがそんなに好きなんだ? で、いつ告白してくれるの?』

 なんて、さわやかに口角を上げながら言われたら、私はそのあとの関係がどうなるかも気にせずに告白してしまう。

 それだけは避けないといけない。

 男らしさを見せてくれるまで、私は陽大と付き合えない。

 だから、このまま入学式を迎えるわけにはいかない。

 かと言って、どうすればいいのか分からない。

 こういう時には、ネットで調べてみるしかないと、スマホを手にした瞬間、メッセージが届いた。

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