第百三十話 あとは待つだけ

 チェインの転生者は仲間を集め、悪の神フォルトナを討つべく、まずその使者を倒すために集結した。


 中心人物は藤原圭。神の力で異世界から転生してきた。仲間は祈祷師のシーカ、用心棒のアラン、裏工作を得意とするレントなど、着実に勢力を拡大していった。


「どうだったんだ? 夜の散歩はよう」

「無事に。あなたが危惧したことは致しませんでした」

「それでよし。たまには手綱を握るってのも悪くねえな」


 藤枝を残してあとはみな死んだ。東城が殺した。


「ジェネット、旅の準備をしておこう。いつでも街から離れられるようにね」

「いいところでしたね。フォルトナ様にお会いするのに、少し足を伸ばさないといけないこと以外は」

「俺はしばらく教会で寝起きをします。藤枝が戻ってきたところを斬ろうかと」

「じゃあ、始まったらでかい音で知らせてくれ。そしたら街から離れるとするよ合流する場所も決めておこうか」

「音……届きますかね」

「あ、じゃあこんなのはどうですか? 私たちも——」

「いけません。相手は一人、俺も一人で立ち向かう。それが正しい」


 そんな考えは持ち合わせていない。ジェネットを戦いから遠ざけるための嘘である。過去、卑怯を嫌っていた時期もあったが、それで負けては元も子もなしと早々に悟っていた。


「でも」

「ご心配なく。相手は心底疲れ切っているはずです。すぐに終わりますので、音を出す必要もないかもしれません」


 ニコニコしながら、ジェネットを黙らせた。彼女たちの他にも従業員がいるはずなのだが、レントが死んで以来、誰もこなくなった。


「さっさと終わらせてやれ。いつまでもこんなところにいたってしょうがねえんだ。誰もいねえし、飯もベッドメイクも客がやるんだから」

「タダですし、豪華な野営って感じで私は好きですよ」

「いい子だねホント」


 東城はその賑やかさから静かに身を遠ざけた。真昼の太陽は暖かいが、風が骨に刺さるかのように冷たい。


 教会へ行くと、いつもなら何も知らない信者たちが祈りを捧げているのだが、この日は違った。


「ああ、九郎さん」


 挨拶をする程度の顔見知りの信者がすがるように声をかけた。


「シーカが」


 東城は血相を変えて彼の肩を掴んだ。芝居ではあるが、こなれている。


「どこにいる」


 その熱量を消し飛ばすように静かに首を振った。こちらへと彼女の部屋に通された。


 死体がないだけで、昨晩のままである。


「引きこもったままの彼女でしたが、朝食のノックに反応しないのは初めてでした。おかしいと思い、部屋に入りました」


 するとこの有様で。彼は涙を堪えきれず、それでも東城に自分たちが見たものを伝えなければならないという使命感だけで言葉を紡いだ。


「胸のあたりに刺し傷がありました。顔にもあざが」

「……埋葬は済んだのか」

「はい。藤枝さんにお見せできないほどでしたので」

「そうか。藤枝はいつ戻るのだ」

「わかりません」

「しばらく、この教会にいさせてくれ。やつが戻り次第、俺が伝える」


 東城は毅然としている。その態度に、信者はついに膝から崩れ落ちた。


「……シーカ」

「このことは他言無用だ。少なくとも藤枝が知るまでは隠せ。あいつはアランを見つけ出し必ず戻ると誓ったのだ、これを知らせれば行くか戻るかの板挟みだ」

「そう致します」


 絞り出したその声に、東城は頷いた。適当な椅子を借り、教会の玄関の横に座った。祈りにくる信者たちは怪訝そうにしているが、東城は無視した。


(早く来い、藤枝。見つかるはずのないものを探すうちに、貴様は二つも失ったぞ)


 飯時になると教会の信者がパンを持ってきてくれた。それだけは嘘偽りなく感謝した。


 

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