第五十二話 よくない手口
店まで出向くと、人相の悪い客たちが入れ替わりで武器や鎧を卸している。それを見た東城は、三流の連中だ、と大股で乗り込んでいった。
「
咎めるのではなく、いつもと同じように爽やかな風をともなっている。
一瞬の間も無く、返答は罵詈雑言である。ドスのきいた怒声が彼の全身をうったが、特に表情も変えない。
「そのやり口は知っている。何か弱みにつけ込んで、粗悪品を高く買わせているのだろう。それはよくない。お節介だろうが、やはりよくない」
「黙っとけよそ者。うせろ、死にてえのか」
「店主、こういう手合はよく来るのか」
もうその姿はなく、奥に引っ込んでしまっている。自分たちを無視するこの男に、客たちは当然ながら激怒した。すでに剣に手をかけているものもいた。
「喧嘩する気はない。考え直せと忠告しているだけだ」
東城の胸板を誰かが殴った。問答無用である。
「やる気か。お前たちから手を出したぞ」
今度は頬を殴られた。彼らの抜刀の光が東城の瞳に輝きを与えた。
「抜いたな貴様ら」
腕を振り抜いて一人の顎を打った。倒れるその男を蹴っ飛ばし、どんと地面を踏んだ。数えると、八人いる。
「抜いたからには死ぬる覚悟があると見た。ちんけな悪事で、見事なもんだ」
無造作に踏み込んでいって、正面にいた男を殴り飛ばした。その命に気をつかわない威力である。
続け様にもうひとりの腕を取り、軽々と投げ飛ばす。剣を抜いたのは二人いて、やっと東城にきりかかってきた。
「む」
東城は小さく唸っただけで、サーベルを鞘から抜かずに受け止めた。格下相手には抜くまいと決めているようである。
「このままやるか」
離れた場所から見ているジェネットたち。カイやアレクラムは主人たちは目をこすり首をかしげて驚いている。
あの男が、こうも……。
そういう感想を禁じ得ない。ジェネットはどれほど彼のもとに駆け寄ってその気迫を鎮められないかと思うのだが、肩に乗るバンローディアの手が強く彼女を掴んでいる。
「まあ、落ち着きな。いつものことじゃないか。あれだって本気で怒っているわけじゃないし、手加減はしているよ。だから落ち着きなさい」
自分に言い聞かせているようでもある。彼女たちが見守る中、刃と鞘の均衡が崩れた。
東城は片手でサーベルを持ち、空いた手でもう一人の剣のつかを握った。拳ごと抱き込むようにしてそれを固定し、捻り上げた。
「こいつの腕が折れるまで続けるか」
「——まいった」
残った連中は逃げ出している。今にも折れそうな腕を抑えながらの呻き声の中、心の折れた戦士が膝をついた。気絶したものに目を向け、
「殺すのか」
と問うた。
「俺の敵であればそうしたが、
来い、とまだ意識のあるものを引っ張って主人の元に戻ろうとしたが、自分とアレクラムとのつながりが他者に広まるのも良くないと思い、
「そこの酒場に行こう。事情を聞かせてもらう」
と目で合図を出した。後から何食わぬ顔で入ってこいという。
「今、こっちを見ましたね」
「終わったっぽいし、あ、酒場に入ろうとしてんな」
「ありゃあこっちに来いってことじゃねえか。俺が往来で話を聞くってのもていが悪いから気を使ったのか」
「やりすぎってことはないだろうけど、東城ってのはあんなことができんのかよ。俺はてっきり、お嬢さん方のお目付役くらいだとばかり」
「私がお目付役ですよ」
ジェネットは胸を張る。それを正しいと思うのは、彼女といるときの東城には害意や敵対心が一切ないからだろう。
「まあ……しばらくしたら行ってみるか」
主人は顎を撫でながら、護衛にしてはやけに強いなと、その出自を訝しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます