第五十一話 押し売り
その商売敵はデルバルという。ロクマではアレクラムと二大勢力といっていい大きな商家だ。
朝食が済むとバンローディアはそのデルバルの店まで足を運んだ。東城たちにはどういう手筈を使ってクイサのことを聞き出すのかを考えさせ、自分だけで少し探ろうとしている。
(あれがデルバルんところの本店か)
賑わっていて当たり前の店の規模と家ではあるが、客の人相が少し悪い。騎士や傭兵の買い出しというわけでもなく、追い剥ぎが戦利品を持ち込むような、血と暴力だけのにおいがした。
(東城に言わせりゃ戦さのにおいだろうな)
しれっとその賑わいに混ざり、商品を物色した。やはり戦利品のものが多く薄汚れていた。
値段も少し割り増しになっている。逃げるようにその場を離れ、遠巻きに商店を眺めていると、離れていく客もあとから来る客も、戦士のようである。その身なりからはあの値段の武器を買えるとは思えないし、自前の武器も質は同程度だ。
観察していると、買いに来たのではなく売りに来ているのだと分かった。
(うわ、やな感じだな)
対応する店主は額に汗を浮かべての愛想笑いをしている。忙しさへの対応に追われているのではなく、戦士たちへの厄介さに参っているようにバンローディアには思えた。まるで恐喝か強請りのようである。
切り上げて帰宅すると、カイが目を覚ましていた。祈祷師の治療は受けず、包帯を巻いている。これを回復してもらうのは惨めだと、カイは自分で手当てをした。
「ただいまー」
「バンさんお帰りなさい。今ですね、騎士様の力を借りようかって話になっています」
ジェネットがお盆を持って出迎えた。東城たちの話がおもしろくなかったために、メイドの手伝いをしているという。
「ほー、じゃあうちらもまざろうぜ。メイドさん、お茶を持ってきてくださいな。そんでお前は私の隣でいい子にしてなさい」
「退屈しないといいんですけどね。ともかくかしこまりました」
東城がそう提案したのだが、主人は難色を示している。身内の問題だし知っているものは少ない方がいいといって、デルバルへ直談判するつもりらしい。
「ただいま。ちらっと見てきたぜ。その商売敵の店」
「物見ですか。どうでした?」
「客は戦士ばっかり。弱みでも握られてんのかってくらいに粗悪な武器の押し売りをされていた。値段も高いし、あれじゃ騎士はもちろん街の人も買わないよ」
「おかしいな。以前はそうじゃなかったぞ。真っ当なやり口だったし、正々堂々と利益を上げていた」
「正々堂々とするのならば、あなたに脅しのような忠告をするはずがありません」
俺も行ってみますと東城は立ち上がった。
「まずはその困らせる客とやらをなんとかして、それから話をお伺いしましょう。その際に俺一人だと心細いので、皆さんは少し離れた場所から見物していてください」
「要するに荒ごとになるから離れてろってことね。薬箱は二つもあるから安心しろ」
「あはは。そんなつもりで言ったのではありませんよ。何より治療は要らないと思います。相手を強請るようなものは、腕に自信がない証拠です」
過去、いやというほどそれをされてきた。友人を人質に取られたこともあった。それを持ちかけられた段階ですぐに刀を抜いてきた。命乞いで居場所を確認すると、苦もなく切り捨てた。
「では参りましょう。ことがうまく運べば、今夜は家族団らんができるかもしれませんよ」
その自信がどこから来るのかジェネットたちにはわからない。しかし東城に自信がある時は本当に解決できていたので、
「アレクラムさん、東城さんなら大丈夫です。ちゃんと解決してくれますよ」
「……そうだといいんだけどな」
太鼓判を押すジェネットだが、主人には優男というような印象しかない。口は達者だが、サーベル一本と舌一枚でどうにかできる問題ではないように思えた。
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