第五十話 うちあける
「で、お前らはクイサとどんな関係なんだ」
ソファを挟み小さな机がある。そこに紅茶が人数分用意され、それを挟んで東城たちがいる。
「あのー、実はですね……」
彼女がいなくなったことを語り、結婚したこともついでのように言った。
「置き手紙があって、新婚なもんで嫁さんがいなくなって焦りまして——」
「はあ!? 結婚だと、クイサとか!?」
机に身を乗り出し、手をついた。紅茶に波紋が広がり、少しこぼれた。
カイは、覚悟を決めた。
「数週間前に結婚をしております!」
これでどうだと胸を張り、その後に殴られた。ソファにもたれ、失神した。
「てめえこの野郎!」
東城は止めない。衛兵もどうしていいかわからずにいる。自然とジェネットたちもその光景を眺めるだけになってしまった。
怒りがややおさまった主人が肩で息をして、ゆっくりと自分の席に戻った。
「そいつが言ったことは本当か。勢いで殴っちまったが……」
「はい。あなたの義理の息子さんです。我々はその友人ハーベイ氏の代理で祝いを伝えるためにカイさんを訊ねたのですが」
あとはご説明した通りです。そう結んで紅茶を飲んだ。おいしいですねと言ってから、
「あ、甲乙付け難いですが」
とジェネットに変な言い訳をした。
「なんのことですか。それより、クイサさんの行方について考えましょうよ」
「そうは言うがお嬢さん。あの子は二月前くらいにふらっと旅に出るとかでいなくなってな」
「家出したんじゃねえの?」
「……そのなり、騎士のところの祈祷師だろ。俺の親戚に騎士がいる。あんまり舐めた口きくなよ」
「はっ、クビになったってかまうかよ。こちとら祈祷師、どこにだって食い扶持があらぁ」
「やめてくださいバンさん」
「失礼ですが、アレクラム家中で揉め事などありますか? 対外的なものは?」
東城がそうやって切り込んだ。放っておけばバンローディアの熱がどんどんと増していくだろう。
「あるに決まってんじゃんよ。私を、このバンローディアさんを脅すんだぜ? まっとうじゃねえや」
「おい。護衛の兄さんよ、しつけがなってねえんじゃねえか」
「まあまあ、とりあえずは話を戻しましょう。何か恨みを買っていれば、それが原因かもしれませんから」
「ああ……まあ、そうだなあ」
考え込んでいる間も、カイはピクリとも動かない。脈はあるようだが、頬には黒や青のあざができている。
「——商売敵が何日か前に」
と半信半疑に口を開いた。
「アレクラムの隆盛もそろそろ終わるだろうなんてくだらねえことを言ってたな。帝国騎士団との契約で競っていたんだが、うちが勝ったからその負け惜しみだと思っていたが」
「騎士に知り合いがいるとおっしゃっていましたが、そのツテでしょうか」
「ああ。姉貴の孫娘なんだが、腕がたつんだ。愛想も悪くねえし、あっちだって飯だ武器だと入用になるからな」
「じゃあその商売敵に探ってみようぜ。もしかしたら地下牢にでも娘さんがいるかもな」
「おっそろしいことを言うんじゃねえよ。そうだったら奴らを八つ裂きにせにゃならんぞ」
(あんたも大概だ)
追いかけっこから共に商売敵を探ることが決まった。ボコボコにされた男もいるが、東城には多少の娯楽になった。
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