第四十九話 豪傑

「探し出せ。絶対に逃すな」


 ついに主人までも捜索隊に加わった。街の広場で指揮をとるその近くの民家の裏に、東城たちはいた。

 逃げるのか立ち向かうのかでまとまらず、コソ泥のようにうろついていた。


「ありゃりゃ。親玉登場だ」

「東城、剣の腕はどれくらいなんだ」

「俺を頼るよりも誤解を解くことの方が重要です」

「東城さんに頼らなくてもなんとかなりますよ」


 バンローディアの楽観がうつったのか、ジェネットは明るく微笑んだ。誰しもが情緒を平静に保てない状況なのだが、彼女は落ち着いていた。

 落ち着いていたからこそ、いつものような無鉄砲が、


「私がなんとかして見せます」


 と発射された。さっと物陰を飛び出して、通りの方に歩いていってしまった。


「待っ! ジェネットさん!」

「やばい! そっちはご主人がいるんだぞ!」

「でかい声出すな! 私もだけど! 待てジェネット、いい子だから戻っておいで!」


 三人は慌てて追いかけ、その背中にたどり着くと、


「……俺が言うのもなんだが、よく出てこれたな」

「アレクラムさん。私たちには誤解があるみたいです」


 衛兵も護衛もみなきょとんとして彼女を眺めている。格好は祈祷師のようだが、その豪胆さは騎士にも劣らない。


「誤解?」

「はい。それを解かないとうまくいかないようなので、家に戻りましょうか」


 バンさん行きましょうと声をかけた。「あ、え? やっぱお前は違うね、超一流だ」


 でしょ? と茶目っ気たっぷりにバンローディアの腕をとった。睦まじい姉妹のようだが、次女は「どうすんの?」と不安げに振りかえりながら屋敷に向かっていく。


「ずいぶんな豪傑だな。本当に何者なんだよ、あんたら」

「俺は彼女の護衛です。何者かどうかは、その豪傑のお嬢さんの命令通りにお屋敷の方で語ります」

「す、すいませんね、どうも偉そうなことばかり言っちまって」


 カイの顎から汗が落ちた。東城もそうである。それを見て主人は軽く笑った。


「苦労してんなあ。ところで、突然飛び出してきたのはなぜだ」

「……やれると思ったのでしょう。そこが豪傑たる所以です」

「アッハッハ! お嬢さんだと思っていたが、どうやら本物だな!」


 実際は東城が頼りにされているのを見て嬉しくなり、無茶をしても助けてもらえるだろうという安易な考えからの行動である。最近は一事が万事そうだった。


「俺が悪いのかもしれませんね。近頃は過保護だと注意を受けたりしますし」


 主人に対して、無自覚に心を開いていた。さっきまで敵対していた男を相手に愚痴をこぼすあたり、ジェネットの特攻でかなり疲れたらしい。


「わかるさ。娘はいつでも可愛いもんだ」


 主人は闇にクイサを映し、そして部下たちを見回した。


「もう上がっていいぞ。ご苦労さん、礼は明日にでも用意しておくよ。カイ、お前らも休んでいけ。ただし明日の朝一番に説明してもらう」


 上等すぎるこの着地点に、カイは内心で涙を流して喜んだ。


「そうだ! さっき俺が木箱を落としませんでしたか」

「あれはクイサのものに間違いない。その辺も全部明日だ、俺も疲れた」


 心労から眠れていないのだろう、よく見ると松明が照らす彼の横顔にははっきりとクマがあったし、頬もこけていた。


「……ええ。全て白状いたします」


 東城がクスクス笑っている。なぜかを聞くと、


「何発もらうのか、想像するとおかしくて」


 主人にはなんのことかわからないが、彼にあるクマやコケと同じくらい太い腕が照らされている。


「……何があっても、洗いざらい打ち明けるよ。そうしないと、彼女には会えないだろうから」


 芯のある男ではある。しかし唇は震えていた。

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