第5話 立派な駕籠のお出迎え

 光の玉が源蔵と京助に瞬く間に近づくと男たちの掛け声が聞こえてくる。


 ――えっさほいさっ、えっさほいさっ。


 源蔵と京助の目に乗り物の駕籠かごが二つ見えてきた。

 担ぎ手は男達八人で四人衆で一つの駕籠を担いでいる。

 それにしても殿様が乗りそうな立派な駕籠に二人は面食らった。引き戸が付き庶民が乗るにはおそれ多いほど豪華だ。


(しっかし足が速すぎじゃねぇか?)


 遠くに見えていた光は突風の様な速さで近づいてきた。近くに来てみれば光は駕籠屋の提灯ちょうちんの明かりだったのだ。


 源蔵はいぶかしんだ。

 並の人間の速さではない。

 源蔵が後退あとずさりをして駕籠に乗るのを躊躇ためらったのに、京助はさっさと「お先に」と乗り込んでしまい引き戸を閉めた。

 京助は小窓を開けて「早く乗りなよ、源蔵さん」とその場から動こうとしない源蔵に上機嫌な顔を向けた。


 源蔵が駕籠に渋々乗り込むとすぐに担ぎ手たちが動き出す。

 今宵は満月だから夜目は利くはずだと源蔵は小窓を開けたがすごい速さで走っているらしく景色はちっとも見えない。


「俺らごときにこんな駕籠まで寄越して。一体あのお屋敷の主の正体は誰なんだ?」


 源蔵は独りごちて思想を巡らしたがちっとも答えにいきつかない。

 揺れもひどく源蔵は頭がくらくらとしてきた。酔ったのかと感じた時にふわりと焚いた白檀びゃくだんに似た甘い香りが漂う。


 不思議な匂いを吸った源蔵は香りに誘われるように眠ってしまっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る