カノジョと一緒に、お勉強会with先輩――の、はずだった。






「それで、二人は真剣に水大に入りたい、と?」

「はい! そうなんですっ!」

「まぁ、そうですね」



 というわけで、善は急げ。

 俺とこのはは後日、早速部屋に久保先輩を呼んだ。

 久保先輩は首を傾げながら返事を聞き、しかしすぐに俺をジト目で見る。



「いや、如月さんは分かった。でも橋本のやる気を感じないぞ」

「やる気がないわけではないです。ただ――」

「……ただ?」

「久保先輩、本当に水大生なんですか……?」

「まだ疑ってるのかよ!?」



 彼は俺の疑問にがっくりとうな垂れて、ごそごそとバッグをあさった。

 そして、中から取り出したのは――。



「ほら、これでいいか?」



 一枚の学生証。

 そこには、たしかに久保健太、と名前が表示されている。

 しかしながら、俺とこのはは思わず顔を見合わせてこう言った。



「え、でも写真……」

「別人ですよね?」

「アリスちゃんに会ってから坊主にしたの! 覚えてる!?」

「あー、そう言えば。バイト始めた時の先輩、ずいぶんとチャラかった」

「うん。今となっては、ずいぶん遠い記憶だけどな」



 そんなわけで、先輩が水大生だということが立証されたところで。

 俺たちは、改めてお願いすることにしたのだ。



「それじゃ、改めて――」

「待った。その前に、こっちへの見返り交渉からだ」

「見返り……?」



 頭を下げようとしたところで、彼はそう言葉を遮った。

 そして、咳払いを一つこう言う。



「やはり、勉強するなら集中できる環境が必要だろう。そうだろう? というわけで、どこかで勉強合宿をしようじゃないか!」

「はぁ、勉強合宿……?」

「そうそう、勉強合宿」

「まーた、なにか企んでますね。先輩」

「あっはっは。当たり前じゃないか」



 俺は先輩の提案に、少しだけ苦笑い。

 そんなこちらの肩に腕を回して、彼は小声でこう口にした。



「土日の二日間で良い。近くのスキー場に、ちょうどいい場所があるんだ」

「そこに、アリスも連れてこい……ってことですね」

「さすがだな、橋本。分かってるじゃないか!」

「………………はぁ」



 ――まぁ、先輩らしいといえば先輩らしいか。

 俺はそう思いながら、少し考えた。


 せっかくだし、楽しんで勉強できるのであればいいではないか。

 それに高校生活における冬の思い出を作るのも、これが最後かもしれなかった。だとすれば、ここは口車に乗るのも悪くはない。


 アリスは、このはが行くといえば来るだろうし。



「分かりました。それじゃ、手配は任せていいですか?」

「もっちろんだ! よし、やる気が出てきたぜ!」



 こちらの言葉に、鼻息荒く答える久保先輩。

 後ろでこのはさんは小首を傾げていた。


 俺は少しだけ息をついて。

 しかし、すぐにその合宿を楽しみに思うのだった。



 

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