第2章

カノジョと勝負の三年生に。








「ねぇ、和真?」

「ん、どうしたんだ。このは」

「和真は、どこの大学を目指してるの?」




 いつものように、俺の部屋で二人の時間を過ごしていた。

 そんな最中に彼女はそう訊いてくる。



「んー、そうだな。やっぱり地元の大学が良いんだけど」

「そう? それなら、わたしも地元が良いかな!」

「え、このはならもっと上に行けるだろ」



 会話の流れとはいえ、俺はこのはの言葉に驚いた。

 しかし、このはは至って冷静らしく。こちらを真っすぐに見ながら言う。



「大丈夫だよ! それに、私大でも凄い大学あるし!」

「私大……? といったら、水大か?」

「うん、そうだよ!」



 水大――水瀬大学。

 俺たちの地元に古くからある、有名な私立大学だ。偏差値も全国トップレベルで、盛んな部活動が有名だ。そして、その大学を運営しているのは名前からお察しの通り――アリスの父親が理事長を務めているとか。

 アリスと知り合ってからようやく、俺も認知したのだけれど……。



「さ、さすがに親戚の運営する大学に行くのはな……」



 気が引けてしまう。

 それが、本音だった。それに学力も少しばかり足りない。

 俺の成績はあくまで中の上が良いところ。このはのように、高い成績を持っているわけでもなかった。だから水大に行くのは、難しいと思ったのだが――。



「大丈夫だよ、現役の人に教えてもらおうよ!」

「現役……?」



 このはがそう言って、胸の前で拳を握った。

 そして、衝撃の事実を述べる。




「久保さん、水大だよね?」――と。




 その瞬間、俺に電流が走った。

 あの久保先輩が、水大の学生だって……?



「あの人、が?」

「うん。前にちらっと言ってたよ」

「えー……?」



 全然、想像ができなかった。

 あの口を開けば、二言目にはアリスのことという先輩が。まさか、そのような環境に身を置いているとは思いもしなかった。

 


「教えてもらおうよっ! 別に、卑怯なことじゃないし!」

「そう、だな……」



 そして、そこまで言われて。

 俺はようやく気持ちを固めるのだった。



「俺も、水大目指すよ」――と。



 なによりも、このはと少しでも一緒にいたい。

 今みたいに別々の学校にいるのは、寂しかったのだ。




「…………うん!」




 俺の返事に、彼女は嬉しそうに微笑む。

 こうして俺たちの受験戦争は、幕を上げるのだった。



 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る