カノジョたちと一緒に勉強合宿の地へ。









「いやー、まさかスキー場の経営までしているとは……」

「私の家は、大半のリゾート経営に手を出していますから」

「ははは……さすがだ、水瀬家」



 この会話ですでに予想できると思う。

 簡単に言えば、先輩が目をつけていたスキー場はアリスの父親が経営している場所だった。そんなオチである。

 で、結果的には彼女の口利きでコテージを貸し切りにしてもらった。

 先輩の出番はなし、というところ。



「ぐぬぬ。このままでは終わらんぞぉ」

「久保先輩。なにそんな、復讐に燃える敵キャラみたいなオーラを……?」

「二人ともなにを話してるの?」

「あぁ、このはは気にしないでくれ」

「…………?」



 行きの車の中で、後部座席の俺たちを振り返り首を傾げるカノジョ。

 俺はこのはがアリスとの雑談を再開したのを確認し、端っこの方で小さくなっている先輩に声をかけた。どうにも、たまには先輩らしく仕切りたかったらしい。


 いつも、良い感じに先輩やってると思うのだけど。


 そこはそれ。

 好きな女の子の前では、かっこよくありたい男の性か。



「先輩。とりあえず、元気出しましょうよ」

「しかしな、橋本。俺はアリスちゃんのお父さんと、約束したんだよ」

「約束……?」



 いつの間に、叔父と会ったのか。

 それは置いておいて、俺は彼の話に耳を傾けることにした。



「男と男の約束だ。それが何かは、言えないがな」

「はぁ、さいですか」

「あぁ、そうだ」



 そこで気持ちを切り替えたのか、久保先輩は深く息をつく。

 そして、そっと俺に囁くのだった。



「お前はお前で、受験シーズン直前にちゃんと堪能しとけよ?」――と。




 それは、このはと思い出を作れ、ということだろう。

 俺は言われるまでもない、と頷くのだった。







 一方その頃、女性陣。



「アリスちゃんは、スキー経験あるの?」

「昔に少しだけ。お姉様は?」

「わたし、実は全然なんだよね。てへへ」

「そ、それなら……!」



 アリスはそこで、いくつかの選択肢を思い浮かべる。


 一つ、自分がこのはにスキーを教えること。

 正直なところ、これが少女にとって最もやりたいことだった。憧れの人に自分が手ほどきをするというその矛盾に、どうにも興奮を隠しきれない。

 しかし、このはには和真という存在がある。


 したがってアリスは、二つ目の選択肢である方を選んだ。



「……そ、それでは――」



 苦渋の選択として。



「久保さんと和真兄さんに、教えていただきましょう……」



 しかしそんな彼女の表情を見て、このはが目を丸くするのだった。




「アリスちゃん、梅干しでも食べた……?」――と。




 そんなこんなで、一同はスキー場へ。

 わいわいと賑やかな時間が、過ぎていくのだった。



 



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