カノジョと契る、始まりの地で。







『わたし、かずまのお嫁さんになりたい!』



 幾度となく、思い返した子供の頃の言葉。

 このはの胸の中にあった、素直な、初めての恋心からの言葉だ。

 少年はそれに、彼女を守ると、そう誓うことで応えてくれた。その時はそれが嬉しくて仕方なかったが、高校生になって付き合うことになり、意味合いは変わる。


 二人が通っていた幼稚園。

 そこの入り口前に立ち、改めて少女は息をついた。


 自身のすべては、ここから始まったのだから。

 彼との出会いが自分を変えた。その後も、自分の成長の傍らには必ず彼がいた。思いは募る。募り続けて、どんどんワガママになってしまう。


 それでも、このはは決めていた。

 悪いのは和真だと、そう決めていたのだ。



「ねぇ、和真……?」



 少女は、幼稚園の門に触れながら振り返った。

 視線の先には、一番大好きな少年の姿。とても優しい、彼の姿だった。



「わたし、ね――」




 そんな彼に向かって、このはは言った。







「わたし、和真のお嫁さんになりたい」



 ――俺はまっすぐに、その言葉を受け止める。

 彼女の言葉に、表情に、そして何よりも声色には本当があった。

 心の底から俺のことを欲してくれている。その想いが、一直線に。



「和真は、どう思ってる……?」



 不安もあるのだろう。

 それは、痛いほどに分かった。

 ここで拒絶されては、彼女は壊れてしまう。

 でも、それだからではない。俺は心のままに伝えることにした。



「このは、少し目を瞑ってくれても良いか?」

「ん……」



 そうお願いして、俺は優しく。




「このは、俺は――」




 彼女を抱きしめながら、耳元でこう囁いた。

 とても恥ずかしい、俺の気持ち。





「このはのこと、愛してる」――と。





 それは、好きを超えた想いだった。

 俺は彼女の弱いところも、強いところも、何もかもが好きだった。だから、自然とこんな言葉が出てきたのだ。『好き』ではなく――『愛している』、と。



 あぁ、なんと荒唐無稽なのだろう。



 それでも、こんなにも愛おしい。

 俺はこの時間がいつまでも続けばと、そう願った。



「和真、ありがとう……!」



 俺の身体を抱き返す、このは。

 その時、ふと雪が降ってきたことに気付いた。




 人気のない、幼稚園の前。

 始まりの場所の前で、俺たちは――。




「いつか、必ず迎えに行くからな」

「うん……!」




 もう一つの約束を交わすのだった。


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る