カノジョと契る、始まりの地で。
『わたし、かずまのお嫁さんになりたい!』
幾度となく、思い返した子供の頃の言葉。
このはの胸の中にあった、素直な、初めての恋心からの言葉だ。
少年はそれに、彼女を守ると、そう誓うことで応えてくれた。その時はそれが嬉しくて仕方なかったが、高校生になって付き合うことになり、意味合いは変わる。
二人が通っていた幼稚園。
そこの入り口前に立ち、改めて少女は息をついた。
自身のすべては、ここから始まったのだから。
彼との出会いが自分を変えた。その後も、自分の成長の傍らには必ず彼がいた。思いは募る。募り続けて、どんどんワガママになってしまう。
それでも、このはは決めていた。
悪いのは和真だと、そう決めていたのだ。
「ねぇ、和真……?」
少女は、幼稚園の門に触れながら振り返った。
視線の先には、一番大好きな少年の姿。とても優しい、彼の姿だった。
「わたし、ね――」
そんな彼に向かって、このはは言った。
◆
「わたし、和真のお嫁さんになりたい」
――俺はまっすぐに、その言葉を受け止める。
彼女の言葉に、表情に、そして何よりも声色には本当があった。
心の底から俺のことを欲してくれている。その想いが、一直線に。
「和真は、どう思ってる……?」
不安もあるのだろう。
それは、痛いほどに分かった。
ここで拒絶されては、彼女は壊れてしまう。
でも、それだからではない。俺は心のままに伝えることにした。
「このは、少し目を瞑ってくれても良いか?」
「ん……」
そうお願いして、俺は優しく。
「このは、俺は――」
彼女を抱きしめながら、耳元でこう囁いた。
とても恥ずかしい、俺の気持ち。
「このはのこと、愛してる」――と。
それは、好きを超えた想いだった。
俺は彼女の弱いところも、強いところも、何もかもが好きだった。だから、自然とこんな言葉が出てきたのだ。『好き』ではなく――『愛している』、と。
あぁ、なんと荒唐無稽なのだろう。
それでも、こんなにも愛おしい。
俺はこの時間がいつまでも続けばと、そう願った。
「和真、ありがとう……!」
俺の身体を抱き返す、このは。
その時、ふと雪が降ってきたことに気付いた。
人気のない、幼稚園の前。
始まりの場所の前で、俺たちは――。
「いつか、必ず迎えに行くからな」
「うん……!」
もう一つの約束を交わすのだった。
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