カノジョから、少し歩み寄って。






「静かな場所だな、ここ」

「うん! ここ、わたしだけの秘密の場所なんだ!」



 このはに連れられて、俺たちは校舎から少し外れた茂みの裏にやってきた。

 コンクリートの段差に腰掛けた彼女にならって座る。すると正面には小さな川が流れていた。サラサラという水の流れる音を聞いていると、心が安らぐ。

 日差しは、やや西に傾いて。

 このはの顔を見ると、ほんのりと夕日色に染まっていた。


「それで、話ってなんなんだ?」


 目を細めている美しい少女に、俺は問いかける。

 すると彼女は、ゆっくりと目を閉じて――。



「うん、今なら自信を持てるかも」



 そう、口にした。

 その意味は分からなかったが、俺は訊かない。

 このはのペースに合わせて、言葉が出てくるのを待った。



「わたしね、昔から自分に自信がなかったから。和真の隣にいていいのかな、って考えてた。だから一人で抱え込んじゃって、みんなに迷惑かけちゃった」



 語られたのは、アイツとの一件についてだろうか。

 微笑み、このはは足をパタパタと遊ばせる。



「でも、それってきっと違うんだよね。我慢することは決して強さじゃなくて、誰かのためを思うことが強さなんだ、って。和真のことを見てて、気付いたんだ」



 こちらを見て、いつになく子供のような表情で笑った。



「だから、ね? 今日はミスコンに出て、盛り上げられて、嬉しかった。だから思わず、和真の名前を叫んじゃった。ごめんね?」

「いや、いいよ。それは」

「えへへ! ありがとっ!」



 俺の言葉に、答えるこのは。

 ゆっくり流れる時間の中で俺たちは、互いを想っていた。



「ねぇ、和真? 少しだけ、目を瞑っててくれるかな」

「ん? どうしたんだ?」

「内緒!」



 そんな最中に、彼女は言う。

 内緒と言われたら仕方ないだろう、俺は素直に従った。すると、




「いつも、ありがとう。和真――」




 温もりが、伝わってくる。




「今度はわたしから、ね?」




 あぁ、なるほど。

 俺は理解して、このはに身を委ねた。そして――。





「大好きです。世界の、誰よりも」





 誰もいない、二人だけの場所で。

 俺とこのはは、静かに二回目の口づけを交わすのだった。


 



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