カノジョとワイシャツ。







 ――ある日のこと。


「今日は和真の帰りが遅いなぁ……」


 このはは、彼の部屋で一人ベッドに転がっていた。

 何度も寝返りを打ちながら、モモと戯れる。しかし一向に和真は帰宅しないので、少しばかり心配になってきた。ラインでも送ってみようか、そうも考える。

 だが何かしらの用事であった場合には、邪魔になってしまうかもしれない。


 そんなわけだから、ボンヤリと待ち惚け。



「もう、待てない――ん?」



 そして、いよいよ連絡を取ろうと思った。

 その時だった。



「これって、和真のシャツだよね?」



 床に転がる、一着のワイシャツを見つけたのは。

 おそらくは学ランの下に着ているそれの、うち一着だろう。昨晩から放置されているのか、それは定かではないが、このははおもむろに手に取った。

 そして――。



「ん……!」



 抱きしめて、匂いをかぐ。

 すると少年の残り香が、鼻腔をくすぐった



「えへへ、和真のにおいだぁ……」



 トロンとした表情を浮かべるこのは。

 愛しい彼に抱きしめられているような感覚に陥っていた。ベッドに寝転がり、ふへへ、と怪しい笑い声を発しながら少女はそれを楽しむ。

 しばしして、むくりと起き上がったこのはは――。



「……ちょっとだけなら、いいよね?」



 おもむろに、自身の制服を脱ぎ始めるのだった。

 上半身は下着姿になり、彼女は……。



「あはは、やっぱりブカブカだぁ!」



 なんと、和真のワイシャツを着用。

 余り袖を掴みながら、おかしそうに笑うのだった。



「うぅ、かずまぁ」



 そして、彼の名を口にする。

 愛しくて愛しくて仕方のない、少年の名前を。





 その時だった。





「…………このはさん?」

「ふえっ!?」




 ドアの隙間から、彼氏の声が聞こえたのは。

 ゆっくりと扉が開くと、そこには和真が立っていた。




 夕方の出来事。

 初々しい二人は互いに赤面し、顔を覆うのだった。



 



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