カノジョのコスプレを見た従妹――尊死。








 ――水瀬アリスは決意した。

 必ずやお姉様に悪い虫がつかないよう、努めねばならぬと。

 アリスに恋愛は分からぬ。しかし異性からの視線には人一倍敏感であった。


「お姉様のクラスの出し物は、メイド喫茶。そして、学園祭の準備期間という性の乱れる時期。誰かが勢い余って、お姉様に手を出すか分かりません」


 そう言いながら、少女は二年生の教室を覗き込む。

 周囲の生徒たちはみな、なんだこの一年生、という目で見ていた。自分のクラスの準備は良いのか、という声もあったが、彼女にとってはこのはが優先。

 それ故にアリスは久々に四六時中――親愛なるこのはの監視をしていた。


「さて、そろそろ試着からお姉様が出てくるはずです」


 ごくり――唾を呑み込む。

 下心はあった。確実にあった。

 アリスは完全に公私混同している。


 もっとも、本人はそのことに気付いていないが――。



「――――!?」



 その時だった。

 カーテンで仕切られた場所から、このはが姿を現したのは。

 そして、その姿を目の当たりにしたアリスは――。




「――ふがっ!」




 美少女にあるまじき声を発しながら。

 鼻血を流しながら、倒れこむのだった。

 ダイイングメッセージには、尊い、と書かれている。




「(なんだ、この一年……)」




 その時の周囲の気持ちは、改めてそれに一致した。




 


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