カノジョを守る、みんなの輪。







「録音……? ハハハっ! ――その程度で、ボクが引き下がるとでも?」



 龍馬は起き上がりながら、先輩を睨みつける。

 そしておもむろに、懐から――。


「――っ! 先輩、危ない!」


 ナイフを取り出した。

 刀身を舐めながら、じわりと、久保先輩に迫って。



「奪っちまえば関係ないんだよォ!!」



 一気に駆け出した。

 だが、それを――。



「悪いね、こういう手合は得意なんだ」



 先輩は軽くいなし、ナイフを叩き落として見せた。

 無様に転がった龍馬は忌々し気に、久保先輩のことを見上げる。そして、



「くっ……! いいか、私立の理事長がどれだけの権力を持っているのか、お前らに見せてやる!! あはは、これで如月は退学だなァ!!」



 大声で喚きながら、彼は去っていった。

 残された俺と久保さんは、ふっと息をついてから笑う。

 なぜなら、もうチェックメイトだったから。龍馬は知らないのだ。



 私立だからこそ、特定の縛りがあるということを。







 ――翌日の理事長室。

 そこに龍馬は呼び出され、祖父と対面していた。

 要件はやはり、このはへのイジメ問題。今朝方に学校に提出された音声データを聞いた教員たちは、明らかに動揺していた。

 しかし自分に不利益はない。

 なぜなら、自分は理事長の孫なのだから。



 そう、そのはずだった。

 しかし――。



「おい、爺さん……。それは、どういうことだ!?」

「分からんか。お前は当分の間、停学処分だ」

「な、なんでだよ!!」



 様子が、おかしかった。

 普段なら問題を起こしても、祖父の名を出せば揉み消せたのに。

 なにかがおかしい。そう思っていると、理事長は難しい顔をして言った。



「停学で済んで感謝するべきだ。まさか、水瀬の娘の友人に手を出すとはな」

「水瀬、だって……?」



 それを聞いても、龍馬は首を傾げるしかできない。

 理解が追いつかなかった。どうして――。



「どうしてだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」



 彼の声は、校内に響き渡った。







「いや、最後はアリスの両親に感謝だな」

「私は嫌だったのですがね、お金で解決するようなことは。両親がお姉様を守るためだって、そう言ってくれたから良かったですけれど……」

「アリスちゃんのためだよ、それもね」

「納得できません! でも――」



 このはの住んでいるアパートの前。

 俺とアリス、そして久保さんの三人は放課後に揃っていた。



「でも、お姉様とまた学校に通えるなら。これ以上に嬉しいことは、ないです」



 アリスの素直ではない言葉に、俺と先輩は笑う。

 すると従妹はムッとした表情を浮かべて、こちらを睨んできた。しかし、それも一瞬のこと。なぜなら、この輪の中に欠かせない女の子が現れたから。


 その子は、まだどこか疲弊したような顔をしている。

 それでも俺たちを見た瞬間に笑顔を浮かべ、同時に大粒の涙を流した。



「みんな……っ!」



 そして、輪に加わる。

 まず一直線に俺の胸に飛び込んだ彼女を、俺は抱きしめる。



「おかえり、このは」



 俺は、最も大切な女の子の名前を口にした。

 パジャマ姿のこのはは、少しだけ恥ずかしそうに微笑む。




「ありがとう……!」






 カノジョの感謝の言葉。

 それを聞いて、俺たちは全員が笑顔になるのだった。



 

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