カノジョを守る、みんなの輪。
「録音……? ハハハっ! ――その程度で、ボクが引き下がるとでも?」
龍馬は起き上がりながら、先輩を睨みつける。
そしておもむろに、懐から――。
「――っ! 先輩、危ない!」
ナイフを取り出した。
刀身を舐めながら、じわりと、久保先輩に迫って。
「奪っちまえば関係ないんだよォ!!」
一気に駆け出した。
だが、それを――。
「悪いね、こういう手合は得意なんだ」
先輩は軽くいなし、ナイフを叩き落として見せた。
無様に転がった龍馬は忌々し気に、久保先輩のことを見上げる。そして、
「くっ……! いいか、私立の理事長がどれだけの権力を持っているのか、お前らに見せてやる!! あはは、これで如月は退学だなァ!!」
大声で喚きながら、彼は去っていった。
残された俺と久保さんは、ふっと息をついてから笑う。
なぜなら、もうチェックメイトだったから。龍馬は知らないのだ。
私立だからこそ、特定の縛りがあるということを。
◆
――翌日の理事長室。
そこに龍馬は呼び出され、祖父と対面していた。
要件はやはり、このはへのイジメ問題。今朝方に学校に提出された音声データを聞いた教員たちは、明らかに動揺していた。
しかし自分に不利益はない。
なぜなら、自分は理事長の孫なのだから。
そう、そのはずだった。
しかし――。
「おい、爺さん……。それは、どういうことだ!?」
「分からんか。お前は当分の間、停学処分だ」
「な、なんでだよ!!」
様子が、おかしかった。
普段なら問題を起こしても、祖父の名を出せば揉み消せたのに。
なにかがおかしい。そう思っていると、理事長は難しい顔をして言った。
「停学で済んで感謝するべきだ。まさか、水瀬の娘の友人に手を出すとはな」
「水瀬、だって……?」
それを聞いても、龍馬は首を傾げるしかできない。
理解が追いつかなかった。どうして――。
「どうしてだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
彼の声は、校内に響き渡った。
◆
「いや、最後はアリスの両親に感謝だな」
「私は嫌だったのですがね、お金で解決するようなことは。両親がお姉様を守るためだって、そう言ってくれたから良かったですけれど……」
「アリスちゃんのためだよ、それもね」
「納得できません! でも――」
このはの住んでいるアパートの前。
俺とアリス、そして久保さんの三人は放課後に揃っていた。
「でも、お姉様とまた学校に通えるなら。これ以上に嬉しいことは、ないです」
アリスの素直ではない言葉に、俺と先輩は笑う。
すると従妹はムッとした表情を浮かべて、こちらを睨んできた。しかし、それも一瞬のこと。なぜなら、この輪の中に欠かせない女の子が現れたから。
その子は、まだどこか疲弊したような顔をしている。
それでも俺たちを見た瞬間に笑顔を浮かべ、同時に大粒の涙を流した。
「みんな……っ!」
そして、輪に加わる。
まず一直線に俺の胸に飛び込んだ彼女を、俺は抱きしめる。
「おかえり、このは」
俺は、最も大切な女の子の名前を口にした。
パジャマ姿のこのはは、少しだけ恥ずかしそうに微笑む。
「ありがとう……!」
カノジョの感謝の言葉。
それを聞いて、俺たちは全員が笑顔になるのだった。
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