カノジョのために、俺ができること。
『御堂龍馬が、自分に好意のある女子に指示を出しているようです』
アリスの話を聞いて、俺は翌日すぐに行動に出た。
まず、このはには学校を休むように指示。本人は驚いていたが、すぐに納得して電話先で泣き崩れた。何度も俺に謝罪し続けた。
一人で抱え込んだのは、俺に迷惑をかけたくなかったから。
そして、いつまでも甘えていてはいけない、そう思ったからだという。
「バカだよ、このは」
だから、俺は言った。
お前はとんでもない間違いをしている、と。
「約束しただろ。――俺が、お前を守るって」
幼い日に交わして、あの日の公園で契った約束。
俺がこのはを守ってみせる。その約束は、誓いは決して消えないのだ。
「久しぶりだな、橋本」
その時だった。
夜の公園に、一人の少年が姿を現したのは。
黒を基調とした癖の強い服装。ジャラジャラとしたチェーンアクセサリーを鳴らしながら、彼は俺に声をかけてきた。
整った顔立ちに、見たことのない邪悪な笑みを浮かべた、もう一人の幼馴染。
――御堂龍馬。
このはの通う学校の、理事長の孫。
そして、今回の事件の首謀者だった。
「あぁ、久しぶりだな。――龍馬」
俺はまっすぐに彼を見据えて、名前を口にする。
そうすると、何がおかしいのか。龍馬は腹を抱えて笑い出した。
「あはは、あはははははは! 白馬の王子様気どり、ってやつだね! 如月をボクから奪った盗人の分際で、ずいぶんとつけあがった態度だ!!」
「………………」
俺はそんな幼馴染をただ見つめる。
そして、こう訊ねた。
「なぁ、龍馬? どうして、このはを傷つけた。好きなんだろ?」――と。
龍馬がこのはに好意を抱いていたのは、知っていた。
だからこそ、今回の一件が不思議で仕方なかったのだ。好きな人をイジメる。その行為の矛盾があまりにも酷かったから。
好きな人の幸せを、どうして祝福できないのか。
俺には、はなはだ疑問だった。
「あぁ、それかい?」
こちらの問いかけに、龍馬は額に手を当てながら答える。
「言って分からないバカだったからね? ――それなら、身体で分からせるしかないじゃないか。裏切りが、どれだけの罪なのか、ってね!!」
「裏切り……?」
俺は首を傾げた。
このはが、龍馬を裏切った……?
それの意味が分からない。そう思っていると、彼は言った。
「そうさ、裏切りさ! ボクが欲しいと思ったモノが手に入らないのは――」
大仰に両腕を広げながら。
「すべて、裏切り、ってことさ!」――と。
それは、あまりにも傲慢な理屈だった。
このはのことを、その気持ちを、物としてしか見ていない。
この少年は、歪んでいた。いったい、いつからこんな風になったのか……。
「全部、お前が悪いんだぞ? ――橋本」
「なに……?」
そう考えていると、腕を前にだらりと垂らして龍馬が言った。
眉をひそめると、肩を揺らして笑いながら続ける。
「お前がいなければ、アレはボクのものだったんだからな。お前さえいなければ、ずっと早くにあの女はボクのモノになっていたに違いないんだから!!」
「てめぇ……!」
俺は拳を握って、走り出した。
そして――。
「が――――!?」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
叫んだ。
そして力の限りに、龍馬の綺麗な顔を殴りつけるのだった。
「かは、あはは……!」
「ふざけんじゃねぇぞ、てめぇ! 人の心をなんだと思っていやがる!!」
倒れ伏した龍馬に、言葉を浴びせる。
しかし、彼は分かっているのか、いないのか。
なぜか愉快そうに笑いながら、俺のことを見上げていた。
「落ち着けよ橋本、息が上がってるぜ? お前がここで声を上げても、理事長はボクの爺さんだ。事実はどんな風にでも、捻じ曲げられるんだよ!!」
だから、お前の頑張りは無意味だ――と。
龍馬は大の字に転がって、腹の底からの声で笑っていた。
たしかに、ここで俺だけが足掻いても意味はない。
そう【俺だけ】なら――。
「それは、どうかな――えっと、龍なんとかくん?」
「あん……?」
声がした。
姿を現したのは、久保先輩。
彼はスマホを示しながら、龍馬に言った。
「キミの発言はすべて録音させてもらったよ?」
そして、静かな口調でそう告げるのだった。
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