カノジョとの何気ない時間はかけがえない。
「かぁずまぁ? ぎゅー、して」
「ん、はいはい」
夏休みも終わり、いよいよ二学期が始まったある日のこと。
久しぶりにこのはが甘えてきた。俺は彼女のことを抱きしめて、ポンポンと頭を撫でる。するとこのはは、今日日モモでもしないくらいに頬をすり寄せてきた。
熱っぽい瞳で俺のことを見上げて、小さく首を傾げる。
俺はそれを見て思わず――。
「ちょっと待ってな?」
すっと立ち上がり、引き出しからある物を取り出した。
そして、それを彼女の頭に装着。
「ん、和真。これって――」
「前にこのはが買った猫耳カチューシャ。そういえば、俺の部屋に置きっぱなしだったな、って思ってさ」
「そ、そうだけど! いま付けるの!?」
「え、だって――」
俺は、猫耳をつけた恋人を見て素直な感想を述べた。
「このは、凄く可愛いし。似合うなって」
すると――。
「ひゃうっ!?」
久々に――ボフン! と。
彼女の頭から、煙が上がった。
見たままのことを褒めるだけでこうなるとは、やはりウブだ。このはさん。
「むむぅ……!」
「ん? どうした、このは?」
しかし、今日に限ってはこれで終わりではなく。
このはは頬を膨らませ、なぜか四つん這いの体勢になった。そして、
「にゃあ、ご主人様。ごはんを下さいだにゃ?」
「ぶはっ!!」
甘えた声で、そう言った!!
手で顔を撫でるように、モモの仕草を真似しながら!!
仲間ができたと思っているのか、このはのもとにやってくるモモ。しかし俺にはもう、恋人の姿しか映っていなかった!!
「どうしたにゃ、ご主人様ぁ?」
「う、うぐぐ」
堪えろ、俺。
耐えろ、理性。
ここで手を出しては、色々とヤバい!
「このは、ご主人様に甘えたいにゃ!」
「――――――」
「――って、あれ? 和真?」
俺は心頭滅却した。
そして、どこか遠くを眺めていると……。
「悟りを開いたの……?」
このはが、首を傾げて適切にツッコミを入れるのだった。
◆
「いやぁ、まさか。このはに一本取られるとは……」
「わたしだって、たまには、ね! えへへ!」
帰宅の時間になり彼女を玄関先で見送る。
猫耳を手に持って、このはは俺を見て笑うのだった。今日もいつも通りに時が過ぎていく。こうして、いつまでも続いてくれたら……。
「ねぇ、和真……?」
「どうした、このは?」
そう考えていると、不意に彼女が俺の名を口にした。
俺が答えると、しかしこのはは――。
「う、ううん! なんでもない! それじゃ!!」
そう言って、駆け足で去って行ってしまった。
俺は声も出せずにそれを見送り、呟く。
「こんな時間がいつまでも、か」――と。
そして、おもむろにスマホを取り出し電話をかけた。
「それを守るためなら、俺はなんでもするさ」
呼び出しの音が切れて、相手が要件を訊ねてくる。
俺はふっと息をついてから、こう言った。
「アリス、少し話がある。今から会えないか?」――と。
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