カノジョとの何気ない時間はかけがえない。







「かぁずまぁ? ぎゅー、して」

「ん、はいはい」


 夏休みも終わり、いよいよ二学期が始まったある日のこと。

 久しぶりにこのはが甘えてきた。俺は彼女のことを抱きしめて、ポンポンと頭を撫でる。するとこのはは、今日日モモでもしないくらいに頬をすり寄せてきた。


 熱っぽい瞳で俺のことを見上げて、小さく首を傾げる。

 俺はそれを見て思わず――。



「ちょっと待ってな?」



 すっと立ち上がり、引き出しからある物を取り出した。

 そして、それを彼女の頭に装着。



「ん、和真。これって――」

「前にこのはが買った猫耳カチューシャ。そういえば、俺の部屋に置きっぱなしだったな、って思ってさ」

「そ、そうだけど! いま付けるの!?」

「え、だって――」



 俺は、猫耳をつけた恋人を見て素直な感想を述べた。




「このは、凄く可愛いし。似合うなって」




 すると――。




「ひゃうっ!?」




 久々に――ボフン! と。

 彼女の頭から、煙が上がった。

 見たままのことを褒めるだけでこうなるとは、やはりウブだ。このはさん。




「むむぅ……!」

「ん? どうした、このは?」




 しかし、今日に限ってはこれで終わりではなく。

 このはは頬を膨らませ、なぜか四つん這いの体勢になった。そして、





「にゃあ、ご主人様。ごはんを下さいだにゃ?」

「ぶはっ!!」





 甘えた声で、そう言った!!

 手で顔を撫でるように、モモの仕草を真似しながら!!

 仲間ができたと思っているのか、このはのもとにやってくるモモ。しかし俺にはもう、恋人の姿しか映っていなかった!!



「どうしたにゃ、ご主人様ぁ?」

「う、うぐぐ」



 堪えろ、俺。

 耐えろ、理性。

 ここで手を出しては、色々とヤバい!



「このは、ご主人様に甘えたいにゃ!」

「――――――」

「――って、あれ? 和真?」



 俺は心頭滅却した。

 そして、どこか遠くを眺めていると……。




「悟りを開いたの……?」





 このはが、首を傾げて適切にツッコミを入れるのだった。







「いやぁ、まさか。このはに一本取られるとは……」

「わたしだって、たまには、ね! えへへ!」


 帰宅の時間になり彼女を玄関先で見送る。

 猫耳を手に持って、このはは俺を見て笑うのだった。今日もいつも通りに時が過ぎていく。こうして、いつまでも続いてくれたら……。



「ねぇ、和真……?」

「どうした、このは?」



 そう考えていると、不意に彼女が俺の名を口にした。

 俺が答えると、しかしこのはは――。



「う、ううん! なんでもない! それじゃ!!」



 そう言って、駆け足で去って行ってしまった。

 俺は声も出せずにそれを見送り、呟く。




「こんな時間がいつまでも、か」――と。




 そして、おもむろにスマホを取り出し電話をかけた。



「それを守るためなら、俺はなんでもするさ」




 呼び出しの音が切れて、相手が要件を訊ねてくる。

 俺はふっと息をついてから、こう言った。







「アリス、少し話がある。今から会えないか?」――と。



 

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