カノジョと俺に迫る影。








「ふぅん、そっか――如月に彼氏、ね」


 月明かりだけが照らす部屋の中。

 一人の少年が、スマホを耳に当ててそう言った。

 片目を隠した長い前髪に、鋭い黒の眼差し。口元には苛立ちか、あるいは興味か。どちらかは分からないが、嫌らしい笑みを浮かべていた。


「情報ありがとう、マナミ。それでこそ、ボクの彼女だよ」


 そして、相手にそう言うと彼は通話を切った。

 ベルトが多くあしらわれた変わった服に身を包む少年は、窓際に立って月を見上げる。まるで歪んだ口の形をしているかのような三日月が、闇をくり抜いていた。

 その月に負けないほどに口角を歪めて、少年はくつくつと笑う。


「面白いじゃないか、如月。ボクを見捨てておいて、他の男を選ぶなんてさ!」


 その声は次第に大きくなって。

 だが途端に、ピタリと止まるのだった。


「相手は誰だァ? やっぱり――」


 机の上にある写真立てを手に取る。

 そこには幼いこのは、和真、そして少年が映っていた。



「この、男かなァ!!」



 彼はそう声を上げると、それを思い切り床にたたきつける。

 すると当然に、写真立ては粉々になった。その中から、彼は写真を取り出し――和真の部分だけを千切る。このはと自分だけを残して、残りは捨て去った。



「あはは、あはははははははははははは! ――いいじゃないか、面白い!」



 そして、額を押さえながら哄笑する。

 最後には、こう口にした。





「裏切り者には、相応の罰を与えないとね!! このボク――」




 明らかに、自分に酔った表情で。





「御堂龍馬が、ね!」――と。





 和真と、このは。

 その身に嫉妬の影が迫っていることを、二人はまだ知らなかった。



 

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