カノジョと俺、従妹と先輩の夏祭り。







「ねぇ、和真! 見てみて、特大わたあめ、だって!!」

「ほほー、なんだこれ。身体の半分ありそうだな」

「わたし、これ買うね」

「……え?」


 無邪気なこのはに、手を引かれるまま。

 俺たちは一緒に屋台を回った。そして分かっていたことだが、俺の彼女はかなりの甘党。お菓子の屋台を発見すると、一直線に飛んで行った。

 今も超特大のわたあめを、嬉しそうに抱えている。


「ホントに食べきれるのか、それ?」

「大丈夫! きっと!」

「きっと、か」


 胸の前で拳をギュッと握って、このはは笑った。

 食べきれるかはひとまず置いておいて、嬉しそうならそれでいいか。

 俺はそう思って袋を開いた彼女を見つめた。そして、思い切りかぶりついた少女の頬についた――。


「ついてるぞ、このは」

「え……?」


 わたあめの一部を、ひょいと取って食べる。

 ポカンとするこのは。俺は、それを見ながら首を傾げた。

 そして、少々の時間を置いてから。



「ふわぁ!」



 ボン――と。

 このはの頭から煙が上がった。

 真っ赤になって、瞳を潤ませる。



「か、かかかか、和真! そんな、いきなり――」

「いや。だって、ついてたし」

「もぅ! ……バカ」



 少女は唇を尖らせて、拗ねてみせた。

 小さく俺を罵ったが凄みはない。完全に照れ隠しのそれだった。


「あはは、ごめんな。悪かったって!」

「むぅ、だったら――アレ買って!」

「ん、りんご飴か?」

「うん!」


 彼女が指さした先にあったのは、りんご飴の屋台。

 俺は財布を取り出して、そちらに向かった。



「あ、一つでいいよ!」

「え? あ、うん」



 背後から声をかけられ、俺は言われた通りに一つだけ購入。

 そして、それをこのはに渡す。すると、


「はむっ!」


 すぐに開封して、一口。

 またも口元に赤い色を付けながら、嬉しそうに笑った。そして、



「はい、和真も!」

「え?」

「わたしの食べたところ、食べて!」

「ええ!?」



 まさかの提案をしてきた。

 俺は思わず大きくリアクションを取ってしまう。

 しかし、そんなこちらに彼女は――。



「はい、あーんっ!」



 目を細めて、そう言うのだ。

 俺は逃げることができず、最終的に。



「あむ……!」



 一口、その甘味を口にした。

 やや酸っぱいリンゴと、飴の甘みが広がる。

 だがそれ以上に、俺の脳に刻み込まれたのは――。



 これって、間接キス、だよな……。




 そんな思いだった。

 胸の高鳴り、頬が熱くなるのを感じる。

 ヤバい。あまりのことに、思わず立ち眩んでしまった。



「あはは、さっきのお返し!」

「参った! このはには、敵わない!」

「えへへ!」



 胸を張って勝利宣言する彼女に、俺は頭を下げる。

 すると、そんな俺の頭を優しく撫でるこのは。




「はい、それじゃ。仲直り!」

「分かった。仲直り、な」




 手を差し出す少女。

 俺は笑いながら、その手を取るのだった。









「ふむふむ、ひとまず順調みたいですね!」

「あぁ、俺たちの不在を忘れるくらいに盛り上がっているね」


 そんな会話を交わすのは、アリスと健太。

 二人は物陰から、バカップル二人を観察していた。


「ホントに、あの二人は……」

「まぁ、そう言わないでさ? アリスちゃんも、お祭り楽しみなよ」

「そういうわけには、いきません!」


 健太の言葉に、首を左右に振るアリス。

 しかし青年はこう指摘した。


「でも、さっきからキョロキョロしてるけど?」

「………………そ、それは!」



 気のせいです、と言おうとした金髪の少女。

 だが、そんな少女の手を健太が取った。そして――。



「日本のお祭り、初めてでしょ? 一緒に楽しもうぜ!」

「あ、久保さんっ!」



 有無を言わさず、アリスの手を引く。

 彼女は少しだけ躊躇したが、間もなくうつむいて従った。



「す、少しだけですよ?」



 そして、少しだけそっぽを向いて頬を膨らせながら。

 健太を上目遣いに見て、そう言った。



「あぁ、少しだけな。少しだけ――――ん?」



 青年は苦笑いをして、少女の身体を引き寄せようとして。

 何かに気付いた。



「どうされたんです?」

「いや、橋本たちを見てる女の子がいたから、さ」

「女の子……?」

「いや、気のせいかな。さ、行こう!」



 きっと、何かの勘違いだろう。

 健太はそう思って、アリスの手を引くのだった。



「もう、強引な方ですねっ!」

「ははは、よく言われるよ」

「……ホントに、もう」



 少女は自分よりはるかに背の高い彼を見て、顔を真っ赤にする。

 そして、空いた手を胸に当ててこう呟くのだった。




「私も、お姉様のこと言えませんね」――と。




 しかし、健太の方はまだ。

 ここに小さな恋心が芽生えたことに、気付いていなかった。



 

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