カノジョと一緒の夏祭り、始まる。







「えへへ。和真、どうかな……?」

「………………」

「和真?」


 俺は半分意識が遠退いていた。

 なぜなら、大切な彼女の貴重な浴衣姿を目の当たりにしたから。

 時刻は夕方五時。西日が差し込む世界に、一輪の花が咲いている。その花とは言うまでもなく、俺の恋人――如月このは。あまりに愛らしいその立ち姿は、まさに反則級。


 赤を基調とした浴衣には、数多の花が描かれている。

 だが、俺はあえて断言しよう。



「綺麗、だ……!」



 このはこそ、最も美しい花であった――と!!



「えへへ、嬉しい」



 俺の言葉に、はにかむ美少女。

 こちらに駆け寄って、腕を組んできた。

 身を寄せ合う。するとほのかに感じるのは、普段付けない香水の匂い。



「ホントに、惚れ直すよ。このは」

「ふへへ……!」



 俺は素直に想いを口にした。

 彼女はそれに、蕩けたような笑顔を浮かべる。



「それじゃ、行こっか!」

「あぁ、そうだな。アリスと先輩も待ってるし」

「今日は楽しもうね!」

「あぁ!」



 こうして、俺とこのはの夏祭りは始まった。







 祭りが行われている神社までやってくると、その鳥居前にはすでにアリスと久保さんがいた。何かを話し合っていたようだが、俺たちに気付くとやめてしまう。

 気にしても仕方ないとは思うので、ひとまず挨拶することにした。


「お疲れ様です。二人とも、気合入ってるなぁ……」

「当たり前だぞ、橋本!」

「私は母様に無理矢理……」

「似合ってるよ? アリスちゃん」

「お姉様……!」


 着慣れない水色の浴衣に、少し恥ずかしそうにしながらも。

 アリスは、このはに褒められて目を輝かせた。


「先輩も、どこか堂に入ってますね」

「おう!」


 対して俺は先輩の服装に目を向けた。

 彼はまさかの羽織袴。まさかのまさか、俺は苦笑いをした。

 顔立ちも悪くないだけに、それなりに何を着ても形になる久保先輩。しかしながら、あまりの気合の入り方に俺は戦いた。

 というか今のご時世、成人式でも着ないだろ、それ。


「でも、良いですね」

「おう!」


 しかし、グッと言葉を呑み込んで肯定する。

 彼はドヤ顔で腕を組むのだった。



「少し、周囲の目が……」



 気になる。

 美少女二人に、羽織袴一人。

 その中で俺だけ普段着というのは――――――浮く!



「まぁ、気にしても仕方ないか。それじゃ――」



 だが、気持ちを切り替える。

 そして皆がこちらを見るので、自然と――。



「今日は、たくさん遊びましょう!!」




 俺が、そう号令をかけた。

 すると三人が満面の笑みで拳を掲げる。




 やはり気恥ずかしいが、楽しくなりそうだと俺は思うのだった。




 

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