カノジョと一緒の夏祭り、始まる。
「えへへ。和真、どうかな……?」
「………………」
「和真?」
俺は半分意識が遠退いていた。
なぜなら、大切な彼女の貴重な浴衣姿を目の当たりにしたから。
時刻は夕方五時。西日が差し込む世界に、一輪の花が咲いている。その花とは言うまでもなく、俺の恋人――如月このは。あまりに愛らしいその立ち姿は、まさに反則級。
赤を基調とした浴衣には、数多の花が描かれている。
だが、俺はあえて断言しよう。
「綺麗、だ……!」
このはこそ、最も美しい花であった――と!!
「えへへ、嬉しい」
俺の言葉に、はにかむ美少女。
こちらに駆け寄って、腕を組んできた。
身を寄せ合う。するとほのかに感じるのは、普段付けない香水の匂い。
「ホントに、惚れ直すよ。このは」
「ふへへ……!」
俺は素直に想いを口にした。
彼女はそれに、蕩けたような笑顔を浮かべる。
「それじゃ、行こっか!」
「あぁ、そうだな。アリスと先輩も待ってるし」
「今日は楽しもうね!」
「あぁ!」
こうして、俺とこのはの夏祭りは始まった。
◆
祭りが行われている神社までやってくると、その鳥居前にはすでにアリスと久保さんがいた。何かを話し合っていたようだが、俺たちに気付くとやめてしまう。
気にしても仕方ないとは思うので、ひとまず挨拶することにした。
「お疲れ様です。二人とも、気合入ってるなぁ……」
「当たり前だぞ、橋本!」
「私は母様に無理矢理……」
「似合ってるよ? アリスちゃん」
「お姉様……!」
着慣れない水色の浴衣に、少し恥ずかしそうにしながらも。
アリスは、このはに褒められて目を輝かせた。
「先輩も、どこか堂に入ってますね」
「おう!」
対して俺は先輩の服装に目を向けた。
彼はまさかの羽織袴。まさかのまさか、俺は苦笑いをした。
顔立ちも悪くないだけに、それなりに何を着ても形になる久保先輩。しかしながら、あまりの気合の入り方に俺は戦いた。
というか今のご時世、成人式でも着ないだろ、それ。
「でも、良いですね」
「おう!」
しかし、グッと言葉を呑み込んで肯定する。
彼はドヤ顔で腕を組むのだった。
「少し、周囲の目が……」
気になる。
美少女二人に、羽織袴一人。
その中で俺だけ普段着というのは――――――浮く!
「まぁ、気にしても仕方ないか。それじゃ――」
だが、気持ちを切り替える。
そして皆がこちらを見るので、自然と――。
「今日は、たくさん遊びましょう!!」
俺が、そう号令をかけた。
すると三人が満面の笑みで拳を掲げる。
やはり気恥ずかしいが、楽しくなりそうだと俺は思うのだった。
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