カノジョと俺の日常。








「………………」

「………………」


 海から帰ってきて、俺とこのはの日常が戻ってきた。

 特別に変わったことはない、と思う。俺は黙々と課題をやって、彼女はモモと戯れていた。鼻歌交じりのこのはの声は、絶好のBGMだ。


 とても捗るし、なによりも思うのは――。


「…………ふむ」




 ――こんなに可愛い子が俺の彼女って夢みたいだ、と。




 考えたら、胸が温かくなった。

 しかし同時に緊張する。なぜなら初恋が実ったは良いが、その先についてはまったくの未経験。どうしたら良いのか分からなかった。

 こう、話しかけるのも勇気がいる、というか。

 今まで以上に、力が入るというか。


「……あっ」


 ――と、しまった。

 そんなことを考えていたら、消しゴムが床に落ちてしまった。

 俺はゆっくりと移動してそれを拾おうとする。

 その時だった。



「あっ……!」

「あっ……!」



 このはも、消しゴムを拾おうとしたらしい。

 手が触れ合って、同じような声が漏れた。互いに手を引いて、様子を見合う。

 沈黙が続くこと十数秒。俺たちは――。



「はははっ……!」

「えへへ……!」



 どちらともなく、笑いだした。

 そして示し合わせたように、隣同士に座って手を繋いだ。そこにモモがやってきて、邪魔にならない位置にすっぽりと収まる。

 どうやら、彼女と俺は同じことを考えていたらしい。

 どう会話を切り出せばいいのか、と。


 それが分かると、また一段とこのはのことが愛おしく思えてきた。


「ねぇ、和真?」

「どうした、このは?」



 そう考えていた、その時だった。




「――大好き」




 囁くように、このはがそう口にしたのは。

 全身が温かくなる感覚に襲われ、思わず赤面してしまった。

 それを見て彼女は笑う。だから俺もお返しに――。




「俺も、大好きだよ。このは」

「ひゃぅっ!」




 耳元で、そう口にした。




「もぅ、卑怯だよ!?」

「あはは、ごめんごめん!」




 膨れっ面になりながらも、どこか嬉しそうな少女。

 それに俺はまた、嬉しくなるのだった。




「こんな毎日が続けばいいね」

「続くさ、きっとな」





 そして、そう言葉を交わして。


 このはは俺の肩に、俺はこのはの柔らかい髪に。

 それぞれの頭を乗せて笑うのだった。




 

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