幼馴染に想い伝えて。








 バーベキューの時間。

 アリスと久保先輩が今までよりも近い距離で談笑しているのを眺めていると、隣にこのはがやってきた。彼女は無言で微笑みかけてくる。

 言葉なんて必要なかった。

 今日一日が、とにかく楽しかったのだろう。


「なぁ、このは?」

「どうしたの?」


 俺はアリスに言われたことを思い出して、その場に座りながら訊ねた。

 するとこのはも、首を傾げながら腰を下ろす。


 真っ暗な中にポツンと浮かぶ、明かり。

 その端っこで。



「俺、さ――」



 想いを、告げようとした。

 その時だった。



「ねぇ、和真?」

「――え?」



 不意にこのはが、俺の肩に頭を乗せてそう言ったのは。

 タイミングを逸し、黙るしかなくなった。そうしていると、少女が言う。



「本当に、ありがとう。わたしのために、ここまでしてくれて」

「このは……?」



 とても、静かな声で。

 先輩たちの声が、とても遠くに感じられた。

 耳元で、このはの優しい声が。とにかく温かく感じた。





「わたしまだ、このままが良いの。これより先は、少しまだ――怖いから」





 いつもの甘えてくるような、そんな声色で。

 彼女は俺の言葉の先を知っているような、そんなことを口にした。


「…………そっか」


 触れ合う手から、伝わる温もりと緊張。

 それを解こうとして、俺は小さく微笑んでみせた。

 すると申し訳なさそうに、このはは目を細めて言うのだ。



「ごめんね、和真」

「ううん。いいよ、大丈夫」



 優しく、彼女の頭を撫でる。

 このははくすぐったそうにしてしかし、より俺へと身を預けてきた。



「なぁ、このは――」



 俺は少し話題を変えようとして、この間のことを訊ねる。




「この前、ラインで何を言おうとしたんだ?」




 すると、彼女は少し悲し気に。

 小さくこう切り出した。



「和真、聞いてほしいんだけど。――いいかな?」

「ん、どうしたんだ?」



 雰囲気が変わったのが分かる。

 そんな中で、このははこう言った。




「わたしって、やっぱり――ダメな子、なのかな……?」




 今にも、泣き出しそうな声で。


「え……?」

「龍馬に言われたの。お前はクズだ、って――『誰にも好かれることはない、クズの娘はクズだ』って。だからきっと『和真にも愛想をつかされる』だろう、って」

「なに、を――」

「あはは、変だよね。和真がそんなヒドイ人じゃないって、知っているのに」



 このはは、俺を潤んだ瞳で見てこう言った。





「ねぇ、和真。――キス、してくれないかな」





 まるで、慰めを求めるように。

 彼女は子供のように、それこそ愛情を求めるそれのように。

 俺は息を呑んだ。そして――。













「かず、ま……?」

「誓うよ。俺は、このはを嫌ったりしない、って」













 ぎゅっと、力強く抱きしめた。

 今は違うんだ。彼女の望みに答えたら、それこそ壊れてしまう。




「無理しないでくれ、このは。大丈夫だから」




 だから、子供をあやすように。

 俺はこのはに、そう言い聞かせた。すると、




「うぐ、ひっぐ……ごめん、かずまぁ……!」




 少女は、俺の胸の中で泣き始めた。

 何度も謝りながら。それでも、最後に彼女は――。




「ほんとに、ありがとう……!」

「うん、分かったよ」





 少しずつでいい。

 無理に歩幅を広げる必要はなかった。

 でも、それでも、俺は今言わないといけないと思ったから。




「このは、今はまだ返事しなくても良いから。聞いてくれ」

「うん……!」





 まっすぐに、くしゃくしゃになった彼女の顔を見つめて。

 こう口にした。





「好きだ、このは。――初めて会った時から今まで、そしてこれからも」






 答えはまだない。

 それでも、泣き顔の彼女はゆっくり、俺の胸に顔を埋めるのだった。



 

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