幼馴染と俺の出会いと、これからを考える。
――これは、俺とこのはが幼かった頃のお話。
初めて彼女と出会ったのは、幼稚園に通っていた時だった。
入園式で一言も発しなかった少女。どこか怯えた様子の女の子。そんな彼女から目を離せなかったのは、きっとそれが一目惚れ、初恋だったから。
『ねぇ、キミの名前は?』
そう声をかけたのは、入園してから数日が経った頃だったか。
一人で絵本を読んでいたこのはは、びくりと肩を弾ませて俺のことを見た。
『俺の名前はかずま! キミは?』
『……このは』
しかし返事ができないわけではなく。
あくまで怯えているのだろう、このははそう名前を口にした。
『そっか、このは! 一緒に遊ぼうよ!』
『え……?』
『あ、それとも絵本が良いのかな』
『ううん。別に、大丈夫だけど……』
遊びに誘うと、まだ警戒しているのか彼女は目を逸らす。
俺はそこで少し考える。そして――。
『無理に合わせなくて、いいよ?』
笑いながら、彼女の頭を撫でた。
自分がしたいことがあれば、無理に人に合わせる必要はない。彼女の意思を尊重できないのなら、それはきっと、俺の独り善がりに違いない。
子供ながらに、それは間違ったことだと思った。
すると少女は驚いた顔をしてから、
『……うん。一緒に絵本、読んでほしい』
『分かった!』
小さく微笑んで、そう口にする。
初めて見た彼女の笑顔に、俺も自然と笑った。
隣に座って、よくある絵本に目を通す。途中でその感想を言い合って、お互いに意見を言い合って、笑い合って。気づけば、そんな日々が何日も続いて。
『かずま! わたし、かずまのお嫁さんになりたい!』
少女の言葉が、嬉しかった。
だから俺は誓ったのだ。
『うん、俺がこのはを守るよ!』――と。
それはきっと幼い俺たちの、幼い約束で。
今となっては、反故になっているかもしれないけれど。
少なくとも俺にとっては、自分の一生を捧げても良いと思えるものだった。
◆
「それから、小学校で龍馬と遊ぶようになって。家も近かったから、三人でどこかに出かけたりさ? ――あぁ、龍馬ってのはもう一人の幼馴染なんだけど……」
「………………」
「あの、アリス? 聞いてる?」
「…………この――」
「ん?」
「この、薄らトンカチ!!」
「いってぇ!?」
殴られた! 親父にもぶたれたこと――あった。
とにかく何故か分からないけど、思い出話の途中でアリスに思い切り頭を叩かれた。チカチカとする視界に少女を捉えると、立ち上がった彼女は腕を組んで俺を見下ろしている。顔には明らかな怒りを浮かべて。
いったいどうしたのか。
俺は困惑しながら、アリスの言葉を待った。すると――。
「どうして自分の気持ちを理解しながら、それを伝えないのですか!? あぁ、馬鹿なんですね! 大馬鹿なんですね!? これだから、男ってのは……!!」
キーっと、髪を掻きむしって叫んだ。
唖然とする俺。かといって、馬鹿呼ばわりされて黙っているわけにもいかない。なのでひとまず、言い返すことにした。
「だって、アレは子供の約束で。それに彼女の気持ちを無視は――」
「だってもそってもないです!! 本当に鈍感なんですね!! それとも、良い人アピールですか!? 自分が悪い人になりたくない、とか考えているのですか!?」
「お、おおう……」
しかし、反論の暇さえ与えられない。
顔を急接近させて怒鳴る少女に、俺は両手で待ったをかけながらのけぞった。
「ど、どうしたんだよアリス。そんな剣幕、見たことないぞ?」
「兄さんが馬鹿だからです!! お姉様のこと、考えているようで考えてない!」
すると、アリスはそこで一度深呼吸をして。
ふっと寂しそうな顔をするのだった。そしてこう口にする。
「…………女の子からなんて、そんな酷な話はないでしょう?」――と。
それを聞いて、俺は何も言い返せなかった。
「お姉様が大切なら、しっかりと伝えてあげてください」
アリスが深々と頭を下げる。
「お願い、いたします」
「アリス……」
俺は従兄妹の姿に息を呑んだ。
そして、こう答える。
「分かったよ、ありがとう」――と。
まだ少し時間はかかるかもしれない。
それでも必ず、腹を決めよう。それがきっと、
「このはのために、ね」
最愛の女の子のためでもあると、そう信じて。
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