幼馴染と遊んでいた一方で。






「久保さん……?」

「ん、なんだい。アリスちゃん」

「その一眼レフ、あの二人を撮るつもりで持ってきたんですか?」


 一方そのころ。

 浜辺ではアリスと健太の二人が日に身を晒していた。

 少女は桃色のフリルのついた、可愛らしい水着をまとって。対して青年は海パンにアロハシャツというスタイルだった。ついでに、頭にサングラス。


 そんな中でアリスは不思議そうに、彼にそう訊ねた。

 いつもの健太なら、アリスに執拗に絡んでくる。だからこのカメラも、そのために使うものだと身構えていたのだ。


「いやいや、もちろんみんな撮るよ? ただ――」

「……ただ?」


 青年はアリスを見て笑う。


「あの二人、今に夢中で思い出を形にしてないだろ? それって後々に後悔するかな、ってね。写真の一つでもあれば、きっと困らない」


 そして、海で楽し気に泳ぐ和真とこのはを撮影した。

 小気味のいいカシャっという音。それを聞きながらアリスは、砂浜に腰を下ろした。膝を抱えて撮影に夢中な健太を見る。



「……おかしな人ですね」



 思わず口を突いて出たのは、そんな言葉だった。

 こういう時に限って、不意に大人な一面を覗かせるのだ。アリスとしては身構えていた分だけ、肩透かしを食らったような気持ちになる。

 半径一メートル以内に入ることは許していないが、興味がわいてしまった。

 だからふと、こう訊ねる。


「久保さんは、どうして私に構うんですか?」――と。


 彼がどうして、自分に声をかけるのか。

 本人は一目惚れだと言っていたが、それだけではないように思えた。


「ん……?」


 健太は首を傾げて、しかしすぐに笑ってこう答える。



「だって、アリスちゃん――」



 なんてことないように。




「いつも、泣きそうになってるじゃないか」――と。




 アリスは息を呑んだ。


「久保さん……?」


 そして、彼の名を口にする。

 その顔には信じられないといった表情が浮かんでいた。

 どうして、と。どうしてこの人は、自分のことを――。



「お、可愛い子がいるじゃねぇか!」

「よう! 俺たちと遊ばない?」



 その時だった。



「え……?」



 招かれざる客が、現れたのは。







 俺とこのはが浜に戻ると、そこにあったのは……。



「大丈夫か、二人とも!?」





 二人の遊び人と思しき男性の姿。

 そしてアリスを守ろうと、その間に割って入る久保先輩の姿だった。



 

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