幼馴染との夏の始まり。







 ――まさか、従兄妹の家が資産家の家系だなんて思いもしないだろう。

 アリスは海外資産家の娘であり俺の叔母、つまるところ母さんの妹は資産家の嫁となったそうだった。産まれたばかりの俺が、それを知るはずもない。

 そして、ここ最近まで両親も口にはしなかった。


 会わないのだから、別にいいでしょ――そんな適当なことを言って。


「しかし、プライベートビーチって」

「アリスちゃん、凄いとこのお嬢さんだったんだな……」


 何やら高級な車から荷物を下ろしながら、俺と先輩は顔を見合わせた。

 そして、訪れた地を見回す。そこに広がっていたのは――。


「かずま! 見てみて、まっさらな砂浜だよ!」

「お姉様に喜んでもらえて、嬉しいです!」


 もっと小さなそれと思っていた。

 しかしその思いに反して、リゾートと呼べるのではないか、というほどの砂浜。少し丘を登れば、そこにはアリスの家の別荘だろう。

 真っ白な壁の家がぽつんと建っていた。

 自然豊かなその空間で、無邪気にはしゃぐ少女たち。


「いやぁ、想像以上だ」


 思わず苦笑いをしてしまった。

 でも同じ感覚の人が、もう一人いてくれてよかった。

 俺はそう思って先輩の方を向き――。




「先輩、なんすかそれ」




 おもむろに何かを取り出した久保さんにツッコミを入れた。

 彼は首を傾げながら、こう答える。





「なにって、一眼レフカメラだけど?」

「本格的すぎませんか!?」

「そうか?」





 言って久保先輩、カメラを担ぐ。

 ガチ勢のそれだった。



「え、もしかしてツッコミ俺だけ……?」



 灼熱の日差しを浴びながら、何故だろう。

 冷や汗が出た。



「ほら、ボケっとしてないで荷物運ぶぞ?」

「………………」



 呆然とするこちらにそう告げて、軽々荷物を運んでいく元球児。

 俺はもはや無言で、そのあとを追うのだった。



「まぁ、どうせなら楽しむか……!」



 でも、すぐに気持ちを切り替える。

 ここまできたら、楽しんだもの勝ちだ!



「和真! ――いっぱい、遊ぼうね!」



 白いワンピースを、風になびかせて笑うこのは。

 そんな幼馴染を見て自然と笑みがこぼれた。だから、




「おう! 思いっきりな!!」





 俺は親指を立てながら、そう答えるのだ。




 こうして、俺たちの夏のひと時が始まる。

 ここでの記憶は、今後の俺の人生でも忘れられない思い出となるのだった。


 

 

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