幼馴染同士のある日のライン。







 ――このはの部屋。

 少女はベッドに仰向けになりながら、スマホをいじっていた。

 時刻は夜九時。和真の家から帰ってきて、一通りのことを済ませた後だ。


「今日も楽しかったなぁ」


 充実を声ににじませる。

 このはは、幼馴染の笑顔を思い浮かべながら微笑んだ。

 そしておもむろに、ラインを起動する。宛先はもちろん、彼だった。


「………………」


 しかし、しばし考え込む。

 何を送ろうか。考えていると、思い浮かぶのは――。



「大好き、和真」



 自然と言葉として出ていたそれに、彼女は気づかない。

 無意識に打ち込んで、そこでようやくハッとした。



「(わー! わー!! わたし、落ち着け!!)」



 急いで消去し、枕に顔を埋める。

 耳まで熱い。呼吸が荒くなるくらい、心臓が早鐘のように鳴っていた。



「……うぅ。でも好きだよぉ、かずまぁ……」



 ラインの画面を見ながら、小さく口にする。

 もう、ここまでくれば明確だった。このはは幼馴染に、恋焦がれている。

 相手の気持ちは分からないが、少なくとも自分は、彼のことを世界の誰よりも好きだと思っていた。いいや、そう信じて疑わなかった。



「会いたいよぉ、早く明日にならないかなぁ……」



 ベッドで何度も寝返りを打ちながら、このははそう不満を言う。

 どうして、一日は二十四時間しかないのだろう、と。どうして時間は有限なもので、やりたいことだけをやっていてはダメなのか、と。

 どうして――。



「和真の傍にいたい、だけなのになぁ」



 ――常にそうしていることが、できないのだろうか、と。

 少女は身の丈にあり余る恋心を、必死に抱きかかえていた。そして、



「あ、ライン……」



 その時だった。

 和真から、彼女にラインがきたのは。



『今日もありがとうな。夏休みだけど、みんなでアリスの別荘に行こうぜ! 近くにプライベートビーチがあるらしいから、水着必須な!!』



 その内容に、このはは嬉しくなった。

 夏休みも和真と、そしてみんなと遊ぶことができる。

 大好きなみんなと、大好きな時間を過ごすことができるのだ、と。



「えっと、うん、分かった! ――と」



 すぐに返信した。

 既読はすぐについて、スタンプが送られてくる。

 短いこのやり取りが愛おしい。ただ――。



「………………」




 ほんの少しだけ、気がかりがあった。

 それは先ほど送りかけた内容について、和真に訊きたいこと。

 だから――。



『和真? ちょっとだけ聞いていい?』



 気づけば、このははそうラインを送っていた。

 例によってすぐ既読がついて、どうしたのかと返信がくる。



「………………」



 だが、指が止まった。

 動かない。いいや、これ以上は動かせない。



『ううん、やっぱり何でもない! 海、楽しみだね!!』



 だから、そう誤魔化した。

 怖かったから。彼女は怯えていた。




 この関係が、壊れてしまうのではないか――と。




「和真……」




 ふと、彼の名を口にする。

 すると少女の脳裏をよぎったのは……。





「…………!!」




 もう一人の幼馴染からの言葉。

 痛烈な悪意の込められた、言葉だった。




 

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