幼馴染に変化があった?









「かぁずまぁ~」

「ん、このは?」

「ねぇ、ギュッてして」



 部屋でくつろいでいると、このはがそう言って擦り寄ってきた。

 俺は小さく頷いて肩を抱き寄せる。すると彼女は、モモのように頭を胸にこすり付けた。というか、モモも彼女の肩に乗って真似をしているようである。

 ふわふわとした感触。

 そして、香るのは花のようなそれ。


「最近、なにかあったのか?」


 以前なら少し気の滅入ることがあるから、という理由で甘えてきたこのは。

 しかし、ここのところは変化がみられるようで。


「ん~? なにもないよ」

「そっか」


 これこのように。

 本当に理由なく俺に甘えてくるのだ。

 俺は彼女を愛でると誓っているので構わないが、この違いはなんだろう?


「あ、そうだ!」


 そう考えていると、元気いっぱいに幼馴染がこう言った。


「夏休みに、アリスちゃんの家の別荘に遊びに行かないか、って話が出てるの! アリスちゃんとしてはなんでか、わたしと二人になりたいみたいだけど……」


 楽し気に、そのラインのやり取りを見せる。

 見せていいのか、というツッコミを入れかけたがやめておいた。


「夏休みか、そういえばそっちの高校は補習とかあるのか?」

「ううん! 赤点なしなら、大丈夫!」

「それなら平気か、アリスも」

「そう、だね!」


 ――ん? 

 なんか俺の口から従兄妹の名前が出た瞬間、このはの表情が少しだけ固まった気がした。微妙な差異だけれど、だからこそ違和感がある。

 どうしたのだろうか。

 以前は幼馴染の気持ちが手に取るように分かったのに、今は何故が多かった。


 もっとも、怒っているわけではないらしい。

 だから問題はないと、そう思うのだが……。


「和真? どうしたの?」

「ん、いや。なんでもないよ」


 そう考えていると、俺の顔を覗き込んで上目遣いに訊いてくるこのは。

 相も変わらず美人な幼馴染。小首を傾げる仕草は、愛らしい。

 それに変わりはない。だったら、良いか。


「俺も夏休みは予定ないからな。せっかくだし、みんなで遊びに行こうぜ」

「うん!」


 こちらの提案に、笑顔で頷くこのは。

 ちなみに、みんな、というのには久保先輩も含まれていた。

 大学も夏休みに入ってくるとのことで、バイト先ではよく予定を訊かれている。今年の夏は、四人で海に行くのも悪くないだろう。


 そんな、どこか充実した日々に気分もよくなった。

 窓の外に目を向けると、そこには抜けるような青空がある。


「今年は、良い夏になりそうだ」




 幼馴染からの違和感は分からない。

 でも、それだけは確からしいと思えた。


 

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