幼馴染と俺は苦笑いしかできなかった。
「せ、先輩! ――その頭は!!」
「ふっ、これでアリスちゃんに文句は言わせないぜ!」
翌日のバイト開始前。
久保さんの髪型に、俺は驚愕した。
「いや、女の子一人のために五分刈りにしますか? ふつー」
そう、そうなのだ。
久保先輩は昨日の一件があったからか、大きく髪型を変えた。
茶髪なのは変わりないが、地肌が透けて見える綺麗な坊主頭に。それこそ野球部員のような雰囲気――あぁ、そういえば先輩は元球児か。
とにもかくにも、一人の女の子のために髪を犠牲にしたのだから。
この先輩の本気度はガチだった。
俺はその姿に、同じ男性としてホロリと涙ぐむ。
「さぁ、行こうぜ! 橋本!!」
「はい!」
◆
――で、バイト終わり。
今日も例によってシフトが短かったわけだが、どうしてもと幼馴染とアリスを呼び止めていた俺である。何事かと訊かれたが、それは見てのお楽しみ。
そうやって雑談で場を繋ぐこと小一時間。
ついに、その時はやってきた。
「待たせたな、みんな!!」
彼は、華麗に登場した。
しっかりとポーズを決めて、アリスに向かってアピール。
そして、それを見た少女は一言。
「…………どなた、ですか?」
◆
「元気出してくださいよ、先輩」
「もうダメ。橋本、俺の骨は海に散骨してくれ」
「いや、なんでそこまで飛躍するんすか」
そのあと、とりあえず俺たち四人は近くのコーヒーショップへ。
女子二人は甘いカフェラテを頼み、男組はブラックコーヒーを飲んでいた。だがしかし、目下の問題は思い切り凹んでしまった久保先輩だろう。
彼は完全に白くなっていた。
それこそ、どこかのボクサーのように。
「男なら、もっとしっかりしてほしいですね」
「うぐ……」
「アリスちゃん? それは少し、酷だと思うよ?」
そんな彼に追い打ちをかけるハーフ美少女。
このはがフォローを入れていたが、フォローになっているかは謎。
「……お姉様が仰るなら。そうですね、少しは認めても良いかもしれません」
だが、一応の効果はあった。
アリスは大きくため息をつきながら、そう口にする。そして、
「久保さんにも、私に話しかける許可を与えます」
「マジで!?」
「ただし!!」
喜び立ち上がった先輩に、こう釘を刺す。
「私の半径一メートル以内には、近づかないこと!!」
「ノン!?」
それに、久保さんはうな垂れた。
俺は漫才のような二人の掛け合いに苦笑いしつつ、コーヒーを一口。
「ふ、ふふふふ、いいさ……」
「先輩……?」
そうしていると、先輩が小さく笑った。
そしてこう口にする。
「ツンデレは、こうでないと」――と。
――え、先輩はマゾですか?
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