幼馴染と俺は苦笑いしかできなかった。







「せ、先輩! ――その頭は!!」

「ふっ、これでアリスちゃんに文句は言わせないぜ!」



 翌日のバイト開始前。

 久保さんの髪型に、俺は驚愕した。


「いや、女の子一人のために五分刈りにしますか? ふつー」


 そう、そうなのだ。

 久保先輩は昨日の一件があったからか、大きく髪型を変えた。

 茶髪なのは変わりないが、地肌が透けて見える綺麗な坊主頭に。それこそ野球部員のような雰囲気――あぁ、そういえば先輩は元球児か。


 とにもかくにも、一人の女の子のために髪を犠牲にしたのだから。

 この先輩の本気度はガチだった。


 俺はその姿に、同じ男性としてホロリと涙ぐむ。




「さぁ、行こうぜ! 橋本!!」

「はい!」







 ――で、バイト終わり。

 今日も例によってシフトが短かったわけだが、どうしてもと幼馴染とアリスを呼び止めていた俺である。何事かと訊かれたが、それは見てのお楽しみ。

 そうやって雑談で場を繋ぐこと小一時間。


 ついに、その時はやってきた。





「待たせたな、みんな!!」





 彼は、華麗に登場した。

 しっかりとポーズを決めて、アリスに向かってアピール。

 そして、それを見た少女は一言。






「…………どなた、ですか?」











「元気出してくださいよ、先輩」

「もうダメ。橋本、俺の骨は海に散骨してくれ」

「いや、なんでそこまで飛躍するんすか」


 そのあと、とりあえず俺たち四人は近くのコーヒーショップへ。

 女子二人は甘いカフェラテを頼み、男組はブラックコーヒーを飲んでいた。だがしかし、目下の問題は思い切り凹んでしまった久保先輩だろう。

 彼は完全に白くなっていた。

 それこそ、どこかのボクサーのように。


「男なら、もっとしっかりしてほしいですね」

「うぐ……」

「アリスちゃん? それは少し、酷だと思うよ?」


 そんな彼に追い打ちをかけるハーフ美少女。

 このはがフォローを入れていたが、フォローになっているかは謎。


「……お姉様が仰るなら。そうですね、少しは認めても良いかもしれません」


 だが、一応の効果はあった。

 アリスは大きくため息をつきながら、そう口にする。そして、


「久保さんにも、私に話しかける許可を与えます」

「マジで!?」

「ただし!!」



 喜び立ち上がった先輩に、こう釘を刺す。




「私の半径一メートル以内には、近づかないこと!!」

「ノン!?」




 それに、久保さんはうな垂れた。

 俺は漫才のような二人の掛け合いに苦笑いしつつ、コーヒーを一口。


「ふ、ふふふふ、いいさ……」

「先輩……?」



 そうしていると、先輩が小さく笑った。

 そしてこう口にする。




「ツンデレは、こうでないと」――と。





 ――え、先輩はマゾですか?



 

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