幼馴染に誓った。







「はい、カフェオレ」

「ありがとう、和真」


 近くの公園で、俺とこのはは休むことにした。

 如月のおばさんにも連絡して、とりあえずは俺が送るということに。まだ気持ちが落ち着かないらしい彼女を、ひとまずはゆっくりさせることにしたのだ。

 ベンチに腰掛けて、春とはいえまだ冷える空気に手を揉む幼馴染。

 自動販売機で買ってきたカフェオレを渡すと、嬉しそうに微笑んだ。


「和真、ケガはなかった?」

「大丈夫だよ。腰抜けて、かっこ悪いところ見せたけど……」

「ううん。とてもカッコよかった」

「そっか、ありがとな」


 隣に座って、俺は自分の分の清涼飲料を口にした。

 微量の炭酸が渇いた喉に染み込んでいく。


「………………」


 そして、沈黙が続く。

 あのようなことがあったのだから、仕方ない。

 さっきの交番にいた警察官のオジサンには、褒められつつも怒られた。彼女を守るとは、気骨のある少年だな、と。


 彼女じゃ、ないけどね……。


「あの、和真……?」

「どうした?」


 そう考えて夜空を見上げていると、不意にこのはがそう言った。

 見れば、彼女はうつむいて震えている。


「わたし、本当に、怖かった……」


 そして、そう喉を揺らす。

 これはただ、暴漢に襲われただけが理由ではない。俺には分かった。



「あの人――お父さんのこと、思い出しちゃって」



 そう、理由はそこ。

 彼女が怯えた一番の理由は、酒の臭いだろう。



「もう、ね。昔のことなのに、わたし――」

「気にしないで。俺は傍にいるから」

「和真……」



 俺は静かにそう声をかけた。

 これは少しばかり昔話になるのだが、彼女の父はヒドイ酒乱だったのだ。

 毎夜のように酒に溺れては、彼女の母親に暴力を振るう。最後には浮気をして、離婚することになった。現在のこのはは、母親との二人暮らしなのだ。



「ダメだなぁ、わたし……」



 それが、トラウマになっているのだろう。

 幼馴染は悔しそうに、自分を嘲笑った。俺は――。



「なぁ、このは。――昔のこと、覚えてるか?」

「え…………?」



 そんな彼女に、問いかけた。

 するとこのはは、少し驚いたように首を傾げる。

 俺はまっすぐにその潤んだ瞳を見て、こう語りかけた。



「あの『約束』のこと、覚えてるか?」――と。



 それは、俺が彼女を――。



「あ……」



 このはも、気付いたらしい。

 俺は立ち上がり、彼女の後ろに回って優しく抱きしめながら告げた。



「大丈夫……」



 あの時とは違う。

 けれども、気持ちは変わらない。

 そう伝えたくて、そう想いを乗せて。




「俺が、このはを守るよ」――と。





 俺たち以外に誰もいない公園で。

 このはは、涙を流しながらこう答えた。




「あり、がとう……!」





 こうやって、少しずつ前に進めばいい。

 俺はこの時に、改めてそう思ったのだった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る