幼馴染と従兄妹に先輩を紹介した。








「なぁ、橋本?」

「なんすか、久保先輩」


 バイト中のこと。

 俺は先日、シェイクを奢ってくれた先輩こと久保さんに話しかけられた。間もなくシフトも終了、というところだったので、なかなかに気楽に。

 茶髪の彼を見ると、お客様用のテーブルの方を指さした。


「えっと、如月ちゃんだっけ? お前の幼馴染」

「あぁ、今日も来てるんですか?」

「いや、さ。一人じゃないんだよ」

「一人じゃない……?」


 勝手に納得しようとすると、そんなことを言う久保さん。

 俺は不思議に思ってテーブルの方へと目をやった。

 するとそこには――。



「あぁ、アリスもきてたのか」



 このはと一緒に、水瀬アリスも来店していた。

 二人揃ってポテトをつまんでいる。


「アリス……? 知り合いなのか」

「あぁ、俺の親戚なんですよ」

「へぇ、親戚ね……ふむ」

「どうしたんすか?」


 俺が言うと、彼は少し考え込んだように振舞う。

 そしてボソッとこう言った。



「可愛いな、アリスちゃん」



 ガチめなトーンで。

 俺はそれを聞いて反射的にこう言った。



「ロリコンですか」

「ロリコンじゃねぇよ!? ――大学一年だから、問題ないだろ!?」



 こちらの言葉に、思わずといった風に声を荒らげる先輩。

 となると当然にチーフから、



「お前ら、うるさいぞ!!」



 そんな声が飛んでくるのだった。

 俺たちは小さくなりながら、ひとまず謝罪する。そして、隅の方で小さくなってこんな会話をするのだった。



「頼む、少しでいい。話をさせてくれ……!」

「えー……」



 俺があからさまに不満な声を発すると、久保さんはさらに頭を下げる。



「頼む!! ――一目惚れなんだ!!」

「はぁ、一目惚れ」



 あまりにも必死な大学生の訴えに、若干引きながら俺は考えた。

 たしかに久保先輩の見た目はチャラい。しかしながら、礼儀は正しいし頼りになる人だ。親切だし、俺への新人教育も丁寧だった。

 決して悪い人ではない。

 だけど、軽はずみに従兄妹を紹介してもいいものか?


「まぁ、でも仕方ないですね」


 熟考した後に、俺は深くため息をついた。

 とりあえず会わせるだけなら、問題ないだろう。


「ありがとう、橋本! 恩に着る!!」

「はいはい、どういたしまして」



 シフトも同じ時間に上がりだ。

 あの二人も待っているだろうし、そこで済ませてしまおう。







「和真! お疲れ様!」

「おう、このは。いつもありがとうな」


 そして、バイトが終了。

 店員用の出入り口から出ると、そこには幼馴染と従姉妹の姿があった。このはは駆け寄ってくるが、アリスの方はゆっくりと。

 そして、二人揃って俺の隣を見た。


「あ、あの時の――」

「久しぶり。えっと、如月このはちゃん」

「はい! あの時は、ありがとうございました!」


 このはは面識があり、心を許しているからか。

 比較的明るく久保さんに対応した。だが、対照的だったのは――。


「えっと、キミは水瀬アリスちゃん、だってね。よろしく、俺は久保健太!」

「……………………」



 アリスの方だ。

 明らかに不機嫌な様子で、彼女は久保先輩を見た。

 そして一言、こう口にする。



「不潔」




 あまりに端的に。

 アリスは久保先輩を睨みつけて、こう続けた。



「見るからに遊び人ですね。こういう男性が、私は一番苦手。お金をもらっても一緒にいたくはない、そんな感じです。いかにも狼、って雰囲気ですから」――と。



 場が、凍った。

 俺は苦笑いしながら先輩を見る。すると、彼は――。



「うぐ、えぐ……!」



 ――え、ガチ泣き?

 大粒の涙を流しながら、必死に声を堪えていた。

 そして、



「橋本、俺……出直してくる」

「え、出直すってどこに!?」

「探さないでくれ」

「明日のシフトは!?」





 俺の訴えも聞かずに、彼は去ってしまう。

 残された俺たちは顔を見合わせて、沈黙するのだった。




 だが、翌日のこと。

 俺は久保先輩の姿を見て、驚愕することになった。



 

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