幼馴染とハプニングに巻き込まれた。







「ほらぁ、モモ? そーれ」

「にゃにゃ!!」


 風呂上がりに俺は、モモと猫じゃらし代わりの紐で遊んでいた。

 このはは今、入浴中。着替えは俺のシャツとジャージになってしまったけれど、致し方なしということで、彼女も了承してくれた。

 どこかポーっとした表情だったのは、何故だろう?


「それにしても、お泊り会、か。小学生以来だな」


 そう考えていると、ふと小さい頃のことを思い出した。

 当時は頻繁にお互いの家を行き来していたのだが、それがまさか高校になって再開するとは。なかなかに分からない。

 昔は俺が風呂に入っていると、このはが乱入してきたりしたが……。


「今は犯罪だもんな」

「みゃ?」


 小さく笑うと、それを不思議そうに見上げながらモモが鳴いた。

 俺は再び紐を投げて、猫と戯れる。その時だった。



「ん!? 停電か!?」



 パツン、と。

 部屋が真っ暗になったのは。







「和真の家のお風呂、久しぶりだなぁ……」


 一方でこのは。

 彼女は数年ぶりの幼馴染宅の風呂に、感慨深くなっていた。

 小学生時代を思い出し、こちらも思わず笑っている。


「あの頃の和真、可愛かったよね」


 そして、彼の名を口にした。

 基本的に童顔な和真だが、幼少期はなおのこと幼い顔立ちで。近所のおばさんたちからは、まるで姉妹のようだとからかわれたりしたものだった。

 それが今はもう、しっかりした男の子になって。

 ふと和真の身体つきを想像してしまったこのはは、顔を赤らめた。


「(うぅ、少し恥ずかしくなっちゃった)」


 湯に顔を埋め。

 誰に見られているわけでもない、その赤面を隠そうとした。


「さて、そろそろ上がろうかな?」


 気持ちを切り替える。

 そして、そう言って立ち上がった。

 浴室から出てバスタオルで身体を拭き、下着をつける。


「ふわぁ、これが和真のシャツ……」


 脱衣所のかごに入れてあった、彼のシャツを手に取って惚けてしまうこのは。

 駄目だと分かっていながら、その匂いをかいだ。

 すると、心が安らいでいく。


「んと、よいしょっと」


 しかし、いつまでも悦に浸っているわけにはいかない。

 彼女はそのシャツに袖を通した。その時だった。



「ふぇぇ、停電!?」







「えっと、ブレーカーはこの辺り……」


 俺はスマホの明かりを頼りに、家の中を進んでいた。

 そして、やっとの思いでブレーカーのところにたどり着く。すると、



「ふえぇ、かずまぁ」

「え、このは? どうしてここに」

「わたし、暗いの苦手で……」



 幼馴染が、どうやら近くにいるようだった。

 俺はとりあえず、ブレーカーに手を伸ばして明かりをつける。その瞬間、




「うわっ!」

「きゃっ!」




 視界不良のためかこのはと衝突し、揃って倒れこんだ。

 俺は四つん這いになり、痛みに顔をしかめる。すると直後に明かりが灯って――。




「あ……」

「ひぅ……」




 ――俺たちは、言葉を失った。

 まるで、この体勢は俺が幼馴染を押し倒したようで。

 彼女のほのかに赤く染まった顔に、潤んだ瞳。ぶかぶかのシャツから、微かにはだけた肌。濡れた髪。そして――。




「――――!!」




 思わず視線を下にやって、俺は声にならない悲鳴を上げるのだった。



 

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