幼馴染がファンレターを貰ってきた。
「ラブレター……?」
「なのかなぁ? 少し違う気がするんだけど」
「それって、どういうことだ?」
幼馴染が一枚の便箋を持ってやってきた。
こちらが訊ねると、どうにも煮え切らない返事。首を傾げていると、彼女はこちらにその便箋を渡してきた。開いてみると、書かれていたのはこんな内容。
『拝啓 親愛なる如月先輩へ。
私は貴方の微笑みに、心を絆されてしまいました。
それこそ、貴方の御心のように。氷を溶かす、春の陽気のように。
あぁ、一度貴方との対話の機会を与えてください。その願いが叶うのなら、私は何でも致します。どうかこのお願いを聞いていただけますならば、私は明日の昼に校舎裏で貴方をお待ちしております。
如月先輩をお慕い申し上げる、一羽の小鳥より』
「………………これは、なんだ」
硬直してしまった。
ラブレターというよりはポエムに近く、ポエムにしては現実的すぎる。
きっとだが、これを書いた人物は相当に酔っていた。このはに、というより彼女に恋した自分に対して、と言った方が良いだろう。
「それに、全体的に丸文字だな……」
俺はさらに、思い当たることを口にした。
異性からのラブレターにしては、いくらかか柔らかい字体をしている。
ということは、相手は女子生徒か。先輩とこのはを呼称しているところから、彼女の後輩ということも分かった。
つまり、これは――。
「…………ファンレター、だな」
「ふぁんれたぁ?」
俺の結論に、幼馴染は小首を傾げる。
どうにも我が幼馴染は、自身の魅力に疎いところがあった。なので俺はしっかりと向き合って、手を握ってこう伝える。
「このはは、それだけ魅力的なんだ。自信を持て」――と。
すると、彼女は瞳を潤ませ顔を真っ赤にした。
「ふえぇ!? きゅ、急にそんなこと言われても!?」
そして、舌足らずにそう口にする。
口をパクパクとさせて、手のひらに汗を滲ませていた。
「不安がらなくていい。この便箋を送ってくれた子は、きっと心の底から――このはのことを慕っている。だから、まっすぐにそれを受け止めてあげるんだ」
「まっすぐに……」
俺の言葉に、幼馴染はしばし考え込む。
そして、力強く頷くのだった。
「分かった! わたし、頑張るね!!」
「よし、良い子だ!」
「えへへ!」
宣言した彼女の頭を、ほんの少し強く撫でる。
これにて、ひとまず問題は解決した。少なくとも、俺はそう思った。
「まぁ、純粋なファンだろうから。心配いらないよな」
だから、思いもしなかった。
これがあのような『愉快な事態』を招く、などと……。
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