幼馴染が耳かきしてくれた。







「ねぇ、かずまぁ?」

「どうした、このは?」

「ちょっと来て?」

「ん?」


 課題をしていると、不意に後ろからそう声をかけられる。

 振り返るとそこには、ベッドに腰掛けた幼馴染。手には耳かきを持って、顔をほんのり赤く染めていた。いったいどうしたのだろう?

 そう思っていると、彼女は膝をポンポン、と叩いた。


「あの、たまにはどうかな、って……」

「どうかな、って。もしかして……?」

「うん。耳かき、してあげたいな、って」


 なんの脈絡もなくそう言われて、俺は小首を傾げる。

 すると、そんなこちらを見て。このはは、少し慌てたように言った。


「あ、あああああの! この前、目薬さしてくれたでしょ! そのお礼!!」

「あ、あぁ! あの時の!!」


 釣られて俺も、思わず声を上ずらせる。

 決して緊張していたわけではない。意識などしていない。

 そう、これはあくまでお礼! 邪な気持ちなどあってはならない!


「そ、それじゃ――」


 というわけで、俺は頬を掻きながら。



「お願い、致します」



 深々と頭を下げながら、そう答えた。

 そして、互いに身を固くしながらも所定の位置につく。

 このはの太もも、とても柔らかかった。まるで高級な枕のような――いいや、それ以上に気持ちがよい。温かくて、眠くなる。


「そ、それじゃ。始めるね?」

「う、うん」


 その声と共に、耳かきが優しく挿入された。

 ホントに優しく。痛みもなく、上手に汚れを掻きとっているのが分かる。

 それと同時に感じるのは、彼女の息遣い。どこか熱っぽくて、しかしそれでいて安心するような、不思議な感覚だった。

 俺は自分の胸の高鳴りを必死に抑えながら、しかしそれに身を委ねた。

 あまりに心地よい時間。そして――。


「じゃ、じゃあ次は反対側――」

「う、うん。一回立つか」

「――ううん、そのままこっち向いていいよ?」

「ふえ……?」


 若干の睡魔と戦っていると、このはにそう声をかけられた。





 ちょっと待て?





 こっち向いていいよ、って?





 それって、つまり――。





「いいよ、和真なら……」

「…………」





 俺はそこで思考停止。

 言われるがまま、彼女の方へと顔を向けた。

 ぽす、っと。柔らかい感覚に包まれ、まるで春先の花の香りのようなそれを感じた。瞬きを何度も繰り返しつつ、俺はギュッと目を瞑る。


 ダメだ、邪なことは考えるな、俺!!


「わ、わたしも緊張するなぁ……えへへ」


 そう思っていると、このはが言った。

 すると、気づくのは彼女の胸の鼓動。



 俺と同じだ。

 このはも、凄くドキドキしてる。



 だけど、それもまた心地よくて。




 俺は、だんだんと眠りに――。







 和真が眠りに落ちたのを確かめてから、数分後。

 耳かきを終えたこのはは、ホッと息をつくのだった。そして、


「いつも、ありがとう。和真」


 そう口にして、彼の顔を優しく抱きしめる。



「ふへへ……」






 幼馴染は、いつも以上にふやけた表情を浮かべて彼を見るのだった。



 

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