幼馴染がお昼寝している。







「すぅ……すぅ……」

「………………」


 現在、美少女幼馴染このはさんが、俺のベッドで静かな寝息をたてている。

 起こしてはならない。春の麗らかな日差しの中、彼女は日頃の疲れを癒しているのだから。これを邪魔することは、すなわち万死に値するのだ。

 そんなわけだから、俺は黙々と課題をやっていた。

 分からない箇所をこのはに教えてもらうこともあるが、本日はそれもなし。


 最大限、努力するのみ。


「みゃあ」

「あぁ、モモ。静かにな?」

「みゃ?」


 そう思っていると、子猫のモモが課題の上に陣取った。

 小首を傾げるその子をプリントの上から退かしつつ、人差し指を立てる俺。当然、意味など分からないのだろう。モモは小さく鳴くと、どこかへ行ってしまった。


 さて、それではまず数学から始めようか。

 因数分解だの自然数だの、この辺りは本当に苦手だった。

 そもそも、なんで分解するんだよ。自然のままにしておけばいいのに、と思うのは俺だけなのだろうか?


「ふむ……」


 あと、点Pはいったい何者なんだ。

 なぜ動くのか。そもそも動いてなにを成そうとしているのか。

 などと、下らない思考を巡らせている間に時は流れて行ってしまう。――ダメだ、やっぱり俺に数学はまだ早いらしい。別の課題を先にしよう。


「えっと、こっちは――」


 そう思って、別のプリントを取り出そうとした。

 その時だった。



「あぁ、もう。かずまぁ、だめだよぉ……」

「ふぁ!?」



 甘い声で、このはがそう言ったのは。

 小さく悲鳴を上げながら、俺は後ろを振り返った。

 すると、そこには静かに寝息を立てる幼馴染の姿がある。



「ね、寝言か……はは、びっくりした」



 俺は自分の名前が出てきたことに驚いたが、どうにか深呼吸。

 気持ちを切り替えようとした。



「だめだってぇ、そんなとこさわったらぁ……」

「…………」



 ――ダメだ、気になる。

 夢の中で、俺はいったいなにをしているのか。

 いったい彼女のどこを触ろうとしているのか……!


「…………」


 ジッと、息をひそめる。

 そして幼馴染の方へと目を向けると。


「あ……」

「みゃ!」


 モモが、このはの髪の毛に身体を擦り付けていた。

 いかん。このままでは、彼女が起きてしまう。

 それはダメだ。



「モモ~? ほら、ちゅーるだぞぉ~?」

「みゃあ?」



 ――俺は、このはの寝言に興味津々だった。

 だから、必死にモモを誘き寄せる。しかし、子猫は言うことを訊かず。



「あ、だめだって!」

「かずまぁ、つむじ触るのやめてぇ……」

「夢の中の俺は、何フェチなんだ!?」



 なんか知らんけど、このはがヒドイ夢を見ている!!

 俺への風評被害が拡散してしまう!!


「ほら、モモ? こっちだって――」


 それはいけない。

 なんとなく、いけない気がした。

 だからモモをゆっくり、その場から退かそうとした。その瞬間――。



「ん、かずまぁ?」

「あ……」



 超至近距離で、幼馴染と目が合った。

 トロンとした眼差しで、甘い声を発する美少女。



 そんな彼女は――。



「そんなに、わたしのつむじ……好き?」




 完全に、寝惚けていた。



 

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