幼馴染がバイト先にやってきた。
「おい、橋本。彼女さん、今日も来てるぞ?」
「え、彼女?」
アルバイト中、先輩が茶化すような口調でそう話しかけてきた。
俺がアルバイトをしているのは、某ハンバーガーチェーン店である。もちろん学生客が多いのだが、彼女、と言われてピンとこなかった。
とりあえず「テレテ、テレテ、テレテン」というポテトの揚がる音を聞きながら、俺は先輩の指先に視線をやる。すると、そこにいたのは――。
「このは……?」
受け取り待ちで、手持ち無沙汰なクールビューティー。
幼馴染の如月このはさんが、そこに立っていた。
「あの子、お前がシフトの時に必ずくるからな。付き合ってるんだろ?」
「つ、付き合ってませんよ!? 幼馴染です!」
そして、改めてからかってくる先輩。
だが俺は弁明する間もなく、他の人に呼び出されてしまった。
「いいですか、先輩? このはに変なこと吹き込んだら、怒りますから!」
「はいはい、行ってらっしゃい~」
俺は不安を少し抱えながら、ひとまず店の奥へと向かう。
先輩の悪戯っぽい笑みを見ながら……。
◆
「(あ、和真。奥に行っちゃった……)」
このはは、ボンヤリと彼を眺めながらそう思った。
少しばかり残念だが、仕事中に声をかけるのはマナー違反だろう。その辺をしっかり弁えている彼女は、しょんぼりするだけで、アクションは起こさなかった。
「三百二十一番でお待ちのお客様~?」
「(あ、わたしだ)」
そう考えていると、自分の番号が呼ばれる。
今日はこれで帰ることになる。和真のシフトが何時までか分からないので、今まで待つことはなかったからだ。それがまた、少しだけ寂しいこのは。
しかし仕方のないこと。
そう思い直して、彼女は受け取り口へと向かった。すると、
「橋本のお友達ですよね? いつもありがとうございます」
「…………え?」
不意に、店員からそう声をかけられた。
「それと、これはサービスっす」
「え、でも……」
そして、一つだけのはずのシェイクが二つ。
その店員はニッコリ笑い、それらを差し出してきた。
「あぁ、お金は俺のバイト代から天引きにしてもらうんで。お気になさらず」
「あの……」
「あぁ、それと――」
矢継ぎ早に言い包められる。
最後に、名もなき先輩店員はこう笑うのだった。
「橋本、今日はあと三十分で上がりですよ」――と。
◆
「おつかれさまでしたー!」
着替え終わり、外に出る。今日のバイトはこれで終了だった。
いつもより比較的短いシフトだったので、給料は少なくなる。ほんの少し懐が寂しいここ最近だが、これも全部このはのためだ。
俺は彼女を愛でるために、努力は惜しまないと決めた。
というわけで、帰ろうとすると――。
「かずまっ!」
「え、このは!?」
――このはが、待っていた。
彼女は両手にシェイクを持って、ニッコリと微笑んでいる。
「えぇ、どうしたんだよ。この時間だって知ってたのか?」
「えへへ、教えてもらっちゃった!」
幼馴染はそう言って、片方のシェイクを手渡してきた。
「…………先輩、か」
受け取りながら苦笑い。
変なことは吹き込まれていないと願いたいが、どうなのだろう。しかし、とりあえずは感謝するしかない。そう思って、二人で歩き出した。
「お疲れ様、和真!」
「あぁ、このはも。いつもありがとな」
シェイクを飲みながら、幼馴染に笑いかける。
「少し、溶けてるな……」
「あはは、でも美味しいね!」
甘い甘い、シェイクのような時間。
バイトの疲れは、これで一気に吹き飛ぶのだった。
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