幼馴染はお礼がしたかった。








「和真! こっちだよ、はやくっ!」

「そんなに急ぐなって、大丈夫だよ」


 ――そして、当日。

 俺とこのはは、近隣最大のショッピングモールへやってきていた。

 以前パフェを食べにきた場所だが、今回はどこか意味合いが違っている。こう言ってはなんだが、前回は付き添い、今回は……。


「えへへ、デートみたいだねっ」

「――――――っ!?」


 そうなのだ。

 特に目的もなくショッピングを楽しんでいる。

 それはとても幸せな光景であり、しかし同時に混乱もしていた。だって、そうだろう。大切な幼馴染と二人きりで、そんなこと。これ、明日死ぬんじゃないの? 俺。

 いや、マジで。

 俺としては、彼女と一緒に居られて嬉しいことこの上ない。


「そ、そうだな。か、勘違いされそうだなっ!」

「えへへ、そうだね……!」


 しかし、こうも思う。

 このはの高校の人に見られたら、また誤解を招くのでは、と。

 何度でも言うが、俺はあくまで幼馴染。彼氏ではなかった。このはにも、きっと他に好きな人がいるに違いないし、俺には甘えてくれているだけだ。

 もっとも、彼女が望む限り愛でるのは変わりないけど。


「ねぇ、和真……?」

「ん? どうした?」


 そう考えていると、不意にこのはが立ち止まった。

 そして、こちらを振り返って笑うのだった。



「ううん、なーんでもないっ!」――と。



 とても愛らしい表情で。





「(うぅ、和真の欲しいものってなんだろう?)」


 このはは、楽しく遊びながらも悩んでいた。


「(いつものお礼をしたいんだけど、なにプレゼントしたらいいのかな?)」


 それというのも、今回の目的について。

 彼女が和真を遊びに誘った理由――それは、日頃の感謝を和真に伝えるためだった。そして、構ってくれるお礼をするため。

 何かプレゼントしたいと思いながら、それに適したものが思いつかない。

 彼といる時間を、素直に楽しんでしまう。



「(でも、頑張らないと!)」



 自分ばかりが楽しんでいてはダメなのだ。

 そう思い直す、このは。



 しかし彼女は気づいていない。

 和真にとっては、このはといる時間こそが幸せだということを。







 ――そして、そのまま時は過ぎて。


「楽しかったねぇ!」

「あぁ、楽しかった」


 近所の公園で、二人は夕日を眺めていた。


「(なにも、プレゼントできなかったなぁ)」


 ブランコに彼と横並びになりつつ、このははそう思う。

 楽しかったとは言ってくれるが、果たして本当にそうなのだろうか。そう思ってしまう。すると、そんな彼女の気持ちを察したかのように――。



「今日は、ありがとうな!」

「え……?」



 ――和真は、そう笑顔で言った。

 少女は驚いたように目を丸くして、彼を見る。

 そうしていると、おもむろに立ち上がった和真は彼女の頭を撫でた。



 そして――。



「俺にとっては、このはと遊べることが最高のプレゼントだよ」



 裏表のない、そんな声で言った。

 夕日に照らされる和真の顔。少しだけ幼くも、カッコいい。

 このはには、彼の笑顔がとにかく輝いて見えた。



「和真……」



 それを見て、彼女は――。





「うん、わたしからもありがとう!」







 優しく、少年に抱きつくのだった。



 

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