幼馴染はお礼がしたかった。
「和真! こっちだよ、はやくっ!」
「そんなに急ぐなって、大丈夫だよ」
――そして、当日。
俺とこのはは、近隣最大のショッピングモールへやってきていた。
以前パフェを食べにきた場所だが、今回はどこか意味合いが違っている。こう言ってはなんだが、前回は付き添い、今回は……。
「えへへ、デートみたいだねっ」
「――――――っ!?」
そうなのだ。
特に目的もなくショッピングを楽しんでいる。
それはとても幸せな光景であり、しかし同時に混乱もしていた。だって、そうだろう。大切な幼馴染と二人きりで、そんなこと。これ、明日死ぬんじゃないの? 俺。
いや、マジで。
俺としては、彼女と一緒に居られて嬉しいことこの上ない。
「そ、そうだな。か、勘違いされそうだなっ!」
「えへへ、そうだね……!」
しかし、こうも思う。
このはの高校の人に見られたら、また誤解を招くのでは、と。
何度でも言うが、俺はあくまで幼馴染。彼氏ではなかった。このはにも、きっと他に好きな人がいるに違いないし、俺には甘えてくれているだけだ。
もっとも、彼女が望む限り愛でるのは変わりないけど。
「ねぇ、和真……?」
「ん? どうした?」
そう考えていると、不意にこのはが立ち止まった。
そして、こちらを振り返って笑うのだった。
「ううん、なーんでもないっ!」――と。
とても愛らしい表情で。
◆
「(うぅ、和真の欲しいものってなんだろう?)」
このはは、楽しく遊びながらも悩んでいた。
「(いつものお礼をしたいんだけど、なにプレゼントしたらいいのかな?)」
それというのも、今回の目的について。
彼女が和真を遊びに誘った理由――それは、日頃の感謝を和真に伝えるためだった。そして、構ってくれるお礼をするため。
何かプレゼントしたいと思いながら、それに適したものが思いつかない。
彼といる時間を、素直に楽しんでしまう。
「(でも、頑張らないと!)」
自分ばかりが楽しんでいてはダメなのだ。
そう思い直す、このは。
しかし彼女は気づいていない。
和真にとっては、このはといる時間こそが幸せだということを。
◆
――そして、そのまま時は過ぎて。
「楽しかったねぇ!」
「あぁ、楽しかった」
近所の公園で、二人は夕日を眺めていた。
「(なにも、プレゼントできなかったなぁ)」
ブランコに彼と横並びになりつつ、このははそう思う。
楽しかったとは言ってくれるが、果たして本当にそうなのだろうか。そう思ってしまう。すると、そんな彼女の気持ちを察したかのように――。
「今日は、ありがとうな!」
「え……?」
――和真は、そう笑顔で言った。
少女は驚いたように目を丸くして、彼を見る。
そうしていると、おもむろに立ち上がった和真は彼女の頭を撫でた。
そして――。
「俺にとっては、このはと遊べることが最高のプレゼントだよ」
裏表のない、そんな声で言った。
夕日に照らされる和真の顔。少しだけ幼くも、カッコいい。
このはには、彼の笑顔がとにかく輝いて見えた。
「和真……」
それを見て、彼女は――。
「うん、わたしからもありがとう!」
優しく、少年に抱きつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます