幼馴染は物思いに耽っていた。







「ふんふふーん、ふふふーん」


 このはは、お風呂に入りながら鼻歌を口遊んでいる。

 長風呂な彼女であるが、今日はより一層に入念に身体を洗っていた。そして、そんな彼女の変化に気付いたのか、風呂場の外から声をかける人が現れる。


「あら、このちゃん? ずいぶんとご機嫌じゃない」

「えへへー! 明日、和真と遊びに行くんだぁ」

「橋本くん? 昔から、仲良かったものね!」

「うん! 仲良しだよ!!」


 母の言葉に、無邪気な返事をするこのは。

 しかし次に飛び出したそれに、思わず声をひっくり返すこととなった。



「貴方たち、付き合ってるの?」

「ひゃぅん!?」



 身体を流し終えて、浴槽に戻ろうとした彼女は驚き転びかける。

 だが寸でのところで踏み止まり、出入り口を見た。



「お、おおおおおお母さん!?」

「あら、違うの? 最近、ずっと一緒にいるんでしょ?」

「違うよぉ! もう、勘違いしたらダメ!!」

「あらあら、ごめんなさいねぇ~」



 娘の必死の訴えに、母は笑いながらその場を去る。

 それを確認してから、このはは頬を膨らせながら湯船に浸かった。



「うぅ、お母さんのバカ……」



 ぶくぶくと、泡を作りながら文句を口にする。

 しかしながら、思考は完全に別の方向へと飛んでいるのだった。



「和真……」



 そして、ぽそりとつぶやく。




「好きな子とか、いるのかな……」――と。





 考えると、頬が熱くなる。

 それは湯船に入っているからだと、そう自分に言い聞かせるこのはだった。



 

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