幼馴染は花粉症だった。
「へくちっ」
課題をやっていると、後方からなんとも可愛いくしゃみが聞こえた。
その正体は言うまでもなく、このは。彼女はさっきからずっと、そんな感じである。もしかしてアレの季節なのだろうか?
「花粉症?」
「んぃぃ、すごくしんどいの」
訊ねると、そんな肯定の言葉が返ってきた。
やはり。このははこの季節になると、よくくしゃみをしていた気がする。現在も膝の上にモモを乗せながら、何度もティッシュに手を伸ばしていた。
涙目になって、目元もほんのり赤く染まっている。
「あまり掻かない方が良いんじゃないか?」
「そうだけど、うぅ……へくちっ」
俺が言うと、同意しながらもう一つくしゃみ。
モモはどう思ったのか、そんな彼女の肩によじ登った。
「ウチの母さんも花粉症だからなぁ。なにかないか、探してくる」
「ありがとぉ……へくちっ」
そんなわけで、一時退室。
◆
「とりあえず錠剤と、目薬があった」
戦利品を手渡しながら、俺はぐずぐずになったこのはの顔を観察する。
甘えてくる時以外は、比較的クールビューティーなたたずまいの彼女だった。しかしいまばかりは、まるで生まれたての小鹿みたいにふにゃふにゃだ。
小さなうめき声を発しながら感謝を述べ、ひとまず錠剤を飲むこのは。
しかし、目薬を手に硬直してしまった。
「どうした?」
「うぅぅ、かずまぁ。わたし、目薬さすのにがてぇ」
そして、訊ねると返ってきたのはそんな答え。
点眼薬のケースを手に、涙目をさらに涙目にして訴えてきた。
「どうしても目を瞑っちゃうの……」
「あぁ、それじゃ――」
ということで俺はベッドに移動し、腰掛けてこう言う。
「俺がやってやるよ」
太ももをぽんぽん、としながら。
すると――。
「ひゃう!? それって……!!」
ぼんっ! ――と、このはが頭から煙を出した。
「どうした?」
「どうした、じゃないよぅ! もう!」
こちらが首を傾げていると、彼女は唇を尖らせる。
しかし、案外素直に俺の隣にやってきた。
「うぅ、よろしくお願いします」
そして意を決したように、俺の太ももに頭を置いて仰向けになる。
こうやってみると、意外に顔が近く感じるな。
「はずかしいっ……」
そう思ったのは彼女も同じだったらしく、思い切り顔を逸らした。
「おいおい、それじゃ目薬させないだろ?」
「うぅ、分かった」
俺が言うと、このははようやく真っすぐに。
こちらは前かがみになって、彼女の目に向かって目薬を――。
「ひゃぅっ!」
なんとか、両目に点眼終了。
これでしばらくは、大丈夫だろうと思った。
なので立ち上がって課題を再開しようとすると、
「もう少し……」
「ん……?」
それをこのはに制される。
ぎゅっと抱きつかれて、離してくれなかった。
「分かったよ、このは」
俺はその理由を理解できなかったが。
なんとも愛おしい彼女の頭を、優しく撫でるのだった。
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