幼馴染は甘いもの好きだった。
「むぅ……!」
このはは、とある店の前で仏頂面をしていた。
ジッとショーケースの中を覗き込み、首を左右に振っては、しかし目を離せない。店から出てきた他の女子高生が驚き、去っていくが気づいていなかった。
「(たべたい……!)」
彼女が見ているのは、最近できたスイーツ店である。
多種多様なメニューが並ぶ中、ひときわ目を引くのはやはり――。
「(スペシャルビッグパフェ!!)」
生クリームがこれでもか、というほどに使用されたパフェだった。
どう考えても、一人で食べきれる量ではない。少なくとももう一人、食べ盛りの人物が必要だと思われた。そうなってくると、彼女の頭に浮かぶのは彼だけ。
「(かずまっ!)」
瞬間、このはは瞳を輝かせた。
そしてパタパタと彼の家へと向かって駆け出すのだった。
◆
「かずまぁ、あの……」
「どうしたんだ、このは?」
俺が珍しく課題をしているとどこか申し訳なさそうに、このはが話しかけてきた。振り返ると、後ろで手を組んでモジモジとしている。
そうなると、胸が強調され――もとい。とにかく目のやり場に困った。
彼女に申し訳ない。なので、なるべく直視しないように注意しながら、俺は改めて訊き返すのだ。
「なにか、気になることでもあったか?」
「うぅ、っと……!」
すると、このはは視線を泳がせながら言う。
「かずま、甘いの……好き?」
「甘いの? それって、甘いものってことか?」
俺がさらに訊き返すと、彼女は小さく「うん……」と答えた。
それを受けて俺は、少しだけ思考を巡らせる。
これはいったい、どういうことだろう?
甘いものは嫌いではないが、大量には食べられない俺である。チラチラと見え隠れしているチラシを見る限り、どこかのスイーツを食べに行きたい、というところか。そして口下手で恥ずかしがり屋なこの子のことだ。
何か別の要因があるに違いない。
つまり、それは――。
「なるほど、な」
デートに誘っているみたいで恥ずかしい、というところか。
このはのことなら、昔から手に取るように分かってしまう俺だ。おそらく今の彼女は、一緒に食べたいものがあるにもかかわらず、羞恥心が邪魔をしている状態。
彼氏でもない男性を誘うのは、たしかに勇気がいるよな。
俺に勘違いさせたら、申し訳ないもんな。
大丈夫だ、このは。
お前のその思いは、しっかりと受け取った!
「あー、それにしても」
俺は、肩を鳴らしながらこう言った。
「珍しく勉強したら、糖分が足りなくなったなぁ。このは、もし良かったら俺と一緒に甘いもの食べに行ってくれないか?」――と。
すると、少女は少しだけポカンとして。
しかしすぐに、その表情を無邪気な子供のように明るくした。
「うんっ! 食べに行こ、和真!」
スキップしながら喜ぶこのは。
そんな彼女の様子を見ていると、自然と頬がほころぶ俺であった。
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