幼馴染は甘いもの好きだった。






「むぅ……!」


 このはは、とある店の前で仏頂面をしていた。

 ジッとショーケースの中を覗き込み、首を左右に振っては、しかし目を離せない。店から出てきた他の女子高生が驚き、去っていくが気づいていなかった。


「(たべたい……!)」


 彼女が見ているのは、最近できたスイーツ店である。

 多種多様なメニューが並ぶ中、ひときわ目を引くのはやはり――。


「(スペシャルビッグパフェ!!)」


 生クリームがこれでもか、というほどに使用されたパフェだった。

 どう考えても、一人で食べきれる量ではない。少なくとももう一人、食べ盛りの人物が必要だと思われた。そうなってくると、彼女の頭に浮かぶのは彼だけ。


「(かずまっ!)」


 瞬間、このはは瞳を輝かせた。

 そしてパタパタと彼の家へと向かって駆け出すのだった。





「かずまぁ、あの……」

「どうしたんだ、このは?」


 俺が珍しく課題をしているとどこか申し訳なさそうに、このはが話しかけてきた。振り返ると、後ろで手を組んでモジモジとしている。

 そうなると、胸が強調され――もとい。とにかく目のやり場に困った。

 彼女に申し訳ない。なので、なるべく直視しないように注意しながら、俺は改めて訊き返すのだ。


「なにか、気になることでもあったか?」

「うぅ、っと……!」


 すると、このはは視線を泳がせながら言う。


「かずま、甘いの……好き?」

「甘いの? それって、甘いものってことか?」


 俺がさらに訊き返すと、彼女は小さく「うん……」と答えた。

 それを受けて俺は、少しだけ思考を巡らせる。


 これはいったい、どういうことだろう?

 甘いものは嫌いではないが、大量には食べられない俺である。チラチラと見え隠れしているチラシを見る限り、どこかのスイーツを食べに行きたい、というところか。そして口下手で恥ずかしがり屋なこの子のことだ。

 何か別の要因があるに違いない。

 つまり、それは――。


「なるほど、な」


 デートに誘っているみたいで恥ずかしい、というところか。

 このはのことなら、昔から手に取るように分かってしまう俺だ。おそらく今の彼女は、一緒に食べたいものがあるにもかかわらず、羞恥心が邪魔をしている状態。

 彼氏でもない男性を誘うのは、たしかに勇気がいるよな。

 俺に勘違いさせたら、申し訳ないもんな。



 大丈夫だ、このは。

 お前のその思いは、しっかりと受け取った!



「あー、それにしても」



 俺は、肩を鳴らしながらこう言った。





「珍しく勉強したら、糖分が足りなくなったなぁ。このは、もし良かったら俺と一緒に甘いもの食べに行ってくれないか?」――と。





 すると、少女は少しだけポカンとして。

 しかしすぐに、その表情を無邪気な子供のように明るくした。



「うんっ! 食べに行こ、和真!」




 スキップしながら喜ぶこのは。

 そんな彼女の様子を見ていると、自然と頬がほころぶ俺であった。


 

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