幼馴染はやっぱり口下手だった。
「如月さん? ――貴方が、龍馬くんに酷い仕打ちをしたのはしってるのよ!」
「少しは弁明したらどうなのかしら?」
「この、冷血女!!」
「………………」
高校での昼休みの時間。
このはは、他の女子に呼び出されて体育館裏にやってきていた。
その理由というのも、彼女が龍馬にイジメ紛いの行いをしていた、という誤解が広まったため。顔立ちは悪くない龍馬なので、それなりに囲いの女子がいるのだった。
そんなわけで、三対一の状況を作られてしまったこのは。
彼女はこう思っていた。
「(ふえぇ、和真ぁ。助けてぇ……)」
真顔のまま、硬直して。
しかし同時に彼女は思うのだった。
「(う、ううん。なんとかして、誤解を解かないと!)」
そう考えて。
「あ、あ――」
その、凛々しい顔立ちから放たれたのは。
「――貴方たちには、関係なくない?」
威圧感たっぷりの言葉だった。
如月このは。彼女は、根っからの口下手である。
◆
「かずまぁ……」
「んー、今日は一段と甘えてくるなぁ」
俺が野球ゲームをしていると、このはが後ろから抱きついてきた。
先日、手を握ってきた一件から甘えるのは上手になってきた彼女である。だが、今日はそれに輪をかけてベタベタに甘えてきていた。
俺の背中に顔をこすり付けて、匂いをかいでいるのだが。
それは、彼女にとって心地よい行為なのだろうか?
「もしかして、学校でなにかあったのか?」
「うん……。ちょっと」
ふしゅー、と息をついて。
このはは顔を上げた。
「どうして、わたしは上手く話せないのかなぁ」
そして、寂し気な声で言うのだ。
これは中々のことが、学校で起きたに違いない。
そう思って俺はゲームを中断し、彼女に向き合うのだった。
「そうだなぁ。でも、お前にはもっと良いところがたくさんあるぞ?」
「ふえ、良いところ?」
俺の言葉に、小首を傾げるこのは。
「まず一つ目、とても美人さんだ」
「うぅ、でも――」
「二つ目、とても優しいこと」
「あの――」
「三つ目は、困っている人を率先して助けられること」
「あうぅ、ちょっと待って……」
矢継ぎ早に、厳選した彼女の良いところ百個を告げようとした。
だが、途中でこのはは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。俺の服の袖を掴んで、本当にやめてほしい、という意思表示をしてみせる。
そうなると、俺もこれ以上は言えなかった。
「……ねぇ、和真?」
「どうした?」
それを残念に感じていると、上目遣いに彼女がそう言う。
どうしたのかと、静かに待っているが。しかし――。
「やっぱり、なんでもない……!」
耳まで真っ赤になって、黙りこくってしまった。
そして、俺の胸にぽふん、と。頭を乗せるように置くのだった。
「そっか……。分かったよ」
俺は微笑みながら、ご要望通りに彼女の頭を撫でる。
やっぱり、俺の幼馴染は口下手だった。
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