勇者、舞台女優も虜にしちゃうほどの罪なイケメン
マフィアのボスを始め、まだ息はしているものの、これから死ぬような目に遭わされるであろうぼったくり詐欺犯達の片付けを見送り終えると、俺達は席に戻った。
正直いろいろと疲れ切っていたのでもう休みたかったが、ナイーブンが村の人達には既に声をかけてくれたらしいから、目撃者を待たねばならないのだ。
しかし俺が座席にぐったりと身をもたせかけたのを見計らったかのように、照明が落ち、華々しい音楽が流れた。と同時に、店内中央のステージにスポットライトが当たる。どうやら、このお店自慢のショーが開始するようだ。
あまり興味が湧かなかったのに、俺の目はあっという間に釘付けとなった。
俺が昔常連だった酒場でもこういった催しはよくあったけれど、レベルが全く違う。美しくキレのあるダンス、重力を忘れるかのような華麗なアクロバット、思わずあっと驚きの声が漏れてしまうほどの手品などなど、このショーだけで金が取れるくらいにすごい!
特に素晴らしかったのは、二人組の美女による魔法戦闘劇。
どちらも脳髄が痺れて蕩けそうになるくらい可愛くて綺麗な顔をしているのに繰り出す技は凄まじく、火炎の龍に水流の蛇、七色の光線に暗黒の煙霧と見応えたっぷりだった。水飛沫や火の粉が飛んできたので、本物の魔法であることは間違いないだろう。二人共、エルフ特有の尖った耳をしていたから、あれほどの魔力を惜しみなく消費できたのだと思われる。
もしかしたら、ラクスやパンテーヌ達と同じで元は魔道士だったのかもしれないな。悪い奴に騙されて借金を背負ったとかの事情で、ここで働くようになったんだろうか……うぅ、だったら可哀想。あんな美女達をこんなエロエロしい奴らが集まるような場所に放っておいたら、また悪い奴に騙されかねない。
うむ、ここは俺が身請けしてやるべきだ。彼女達は、俺のようなイケメンの元で愛し愛されながらぬくぬく暮らすのが相応しい。
「なあ、ナイーブン」
ということで早速、俺は店主のナイーブンに話をつけようとした――のだが。
「あらっ、お疲れ様! あんた達ぃ、すっごく良かったわよぉ〜!」
ナイーブンの声に顔を上げると、先程ステージにいた美女二人組の姿が店内にあった。何人もの奴らに群がられていたが、差し出されるドリンクやらチップやらには見向きもせず、真っ直ぐこちらに向かってくる。
え、ウソ? 何で何で?
もしかしなくても、ステージから俺を見て惚れちゃったかな!?
いやー参ったなぁー、俺がイケメンすぎるから向こうから来ちゃったよー。んもぉう、さすが俺っ!
確か舞台を観に行った時も、アイドル女優さんが俺の方を見て手を振ってくれてたっけ。皆には何言ってんだこいつ的な白い目で見られたが、俺にはわかったよ……惚れちゃったんだよな、このイケメン様に。
金がなくてあの後舞台には全然行けなかったから、それきりだったのが悔やまれる。しばらくして同じ舞台俳優と結婚したって聞いたけれど、彼女は待ち続けても来ない俺を忘れるために、他の男の手を取ったんだろうな。はぁ、俺ってば本当に罪な奴だぜ。
キラキラのスパンコールが散りばめられたタイトなミニドレスを着た二人は、ステージを降りてもきらびやかだった。むしろ至近距離で見ると、ますますその美しさに圧倒されたよ。
背の高い方は、短い金の髪をランダムな外ハネにしたスタイリッシュな美人。切れ長の目をアイラインでさらに強調して、媚びない強さが全面に押し出されて近寄り難い雰囲気すら感じる。
背の低い方は、ミディアムヘアを内巻きカールにしたキュートな美女。大きな瞳をラメのアイシャドウで彩り、キラキラとした濡れたツヤが童顔に色気を添えている。
な、何だこれ……どうしよう? 美しすぎて言葉が出ない。
イケメンらしくスマートに声をかければ、『この後どう?』からの『お持ち帰りしてして!』になるに決まってるのに、気圧されて何も言えない。
こんなピュアな俺も可愛いと伝わっていることは間違いないだろうけれども!
「あ、あのあのあのあの……おおおおおれおれれれれれ!」
それでも無理矢理絞り出した声は、やはり言葉にならなかった。
目の前に座って、メニューを開いていた美女二人が不思議そうな目で俺を見る。
や、やばい! おかしな男だと別の意味で興味をそそってしまったか!?
『フッ面白い奴だな』は少女小説の定番だが、主人公が男でも成り立つのか!?
「どうした、エージ。変な顔がますます変になってるぞ?」
「エージさんは、アート・オレがオススメだと言ってるんじゃないですか? カフェオレのミルクに可愛い絵が描かれるみたいですよ」
「ふーん、面白そうだな。だが今は炭酸系が飲みたい。こんな狭いところで派手な魔法を見せろなんて無茶振りをされたものだから、気を遣いすぎて疲れた」
「しかも慣れない格好でしたし、仕事よりも大変でしたよねー。でも、お姉様はまだマシですよ。私なんてこんな高いヒールの靴を履かされたんですからねっ!」
目の前で美女二人が、聞き慣れた声で会話する。映像と音声が合致するまで、しばしの時間を要した。
まさか、こいつら……!
「お、お前ら、ラクスとパンテーヌか!?」
引っ繰り返った声で問うた俺に、二人はぐびぐびとスウィカ・スカッシュを一気飲みしてから答えた。
「ああ、何を当たり前のこと聞いてるんだ?」
「そうですよ、他の誰に見えるというんです?」
俺の身請け待ちな超絶美女に見えてました……。
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