勇者、もしや今が人生初のモテ期なんじゃないかと考えたら、少し悲しくなった


「この二人、どうしても待ってるだけなのは嫌だと言って聞かなくてね。だからメイクで年齢を誤魔化すついでに、メーキャップ代としてショーに出てもらったってワケ」



 二人に料理を取り分けながら、ナイーブンが事情を説明してくれた。


 メイクと衣装だけでこんなに変わるとは、女ってすげえな。それよりこいつら、これほどまでにいい女のポテンシャルを秘めていたのか。


 元々顔立ちが良いとは思っていたが、成長するとさらに輝くに違いない。他の男が手出しする前に、ここは俺が……!



「エージ、何か良からぬことを考えてます?」



 隣からインテルフィに手を握られ、俺は凍った。その力が骨を砕かれそうなほど強く、おまけにインテルフィから怖気立つような冷気を感じたからだ。



「あまりに浮気心が過ぎるようでしたら、ナイーブンさんにお渡しして教育していただこうかしら? リーダーとして尊敬していたナイーブンさんの言うことでしたら、エージだってしっかり聞くでしょうからねえ?」


「まあ、エージちゃん! あんた、インテルフィちゃんという子がありながら浮気しようとしていたの? 確かにアタシの店は粒揃いの美人ばかりだけど、目移りは良くないわね。インテルフィちゃん、安心して。部屋にいる奴らと一緒に、アタシがエージちゃんに運命の人が誰なのかをきちんと教えてア・ゲ・ル?」



 さらにナイーブンまでインテルフィの味方に付いて、もう片方の手を握ってきたもんだから堪らない。


 何だよ、さっきまで険悪ムードだったのに今は目配せして微笑み合いやがって。女って、こういう時だけ妙に連帯感強くなるよな。


 運命の人は教えてもらうんじゃなくて、自分で探すものだ! 二人して余計な手出しするんじゃねえ!!


 とはいえ、元女神だった悪魔と元リーダーだった魔物に両手を取られて、双方から圧をかけられれば、言いたいことも言えやしない。



「ナイーブンさん、お探しの者達を連れてきまチュた」



 竦み上がるばかりの俺を救ったのは、ネズチュー族と思われる小柄でつぶらな目をした男だった。服を着ているが、露出している部分は真っ白の毛に覆われて思わずモフりたくなるような可愛さがある。



「さすがに早いわね、ハチュカ。この村の情報集めに関しては、やはりあなたの右に出る者はいないわ。お礼は、アタシが体で」


「おおおお礼なんて結構でチュ! では用は済んだので私は帰りまチュー!」



 ハチュカなる男は長く細い尻尾を翻し、四足歩行になってそれこそ転がるような勢いで去っていった。



「チッ、逃げ足の早い奴だ。あの可愛い顔が男に変わるところを見たいってのに、いつもこんなだから捕まえられた試しがねえ」



 ハチュカさーん、逃げて正解ですよー。


 それとナイーブンよ、また素の男が出てるぞ? これもナチュラル系とかいうやつで押し通すつもりなのか? さすがに無理があると思うの……。


 ハチュカが消えた後に残されたのは、十名近い男女だった。


 女性の方がやや多いのは、歓楽の村として栄えているせいだろう。中には今夜も仕事中だったらしく、生唾ゴックンコなぷりりんオッパイが見えそうで見えないセクシーランジェリー姿の子もいた。


 しかしインテルフィもナイーブンもまだ手を離してくれなかったので、『無料でいいからイイコトしましょ♡』と誘いたかっただろうに、その思いを受け取ることはできなかった。誠に無念である。



 とにかく、我々はその一人一人から目撃談を語ってもらった。



 しかし――――全員の話を聞き終えると、俺の頭はハテナマークだらけになった。



 空を浮遊する女性――恐らくリラ団長であろう人物の姿は、皆一致している。


 ところが、彼女を先導していたというコウモリの姿に関する証言がバラバラなのだ。



 ゲダヨと同じく、大きなコウモリだったと言う者もいた。

 だが『金髪の王子様みたいな人だった』だとか『銀髪の儚げな雰囲気の少年だった』だとか『黒髪で目付きの悪いクールな感じの男だった』だとか、果ては『ライオンの顔に紫のウロコに覆われた体を持ち、ウシ並の爆乳とウマ並の○○○をぶら下げた巨漢』だとか、そんな奴いてたまるかとツッコミを入れたくなるようなおかしなものまで、複数人で目撃情報が大きく食い違っていたのだ。



 苦悩するイケメンの表情を颯爽と皆に披露していると、隣からインテルフィが告げた。



「これで、犯人がわかりましたわね」


「良かった……リラ団長はきっと、殺されてはいない。それがわかっただけでも良しとしよう」


「問題は、どこを住処にしているか、ですね。東の方に人目につかない場所ってありましたっけ?」



 ラクスとパンテーヌも同意し、勝手に話を進めていく。


 おいおいおい、わかってないの俺だけ!? これじゃまるで、俺が頭の悪い子みたいじゃないか!



「な、なぁ……犯人って、誰?」



 こそっと耳元で聞いたのに、インテルフィは大袈裟に驚くフリをして大きな声を上げた。



「まあ、エージ! 勇者ともあろうあなたが、この犯人がわかりませんの!? 勇者とも! あろう! あなたが!!」



 こういう時だけ勇者を強調するのやめてほしいな! 絶対わざとだし! 間違いなくさっき俺がラクスとパンテーヌにマイチェリーを食べさせてやろうと考えたことへの当てつけだし!


 俺を取られたくないなら、その柔らかそうなふかふかおっぱいをワンモミでいいから揉ませろってんだ!!



「エージ、バカでもその年まで生きてこられたんだ。誇りに思え」


「エージさん、どんなにバカだろうと生きる権利はありますから気を落とさないで……」



 ラクスとパンテーヌにまで憐れみの目を向けられ、俺は咄嗟に反対隣に座るナイーブンを仰いだ。



「エージちゃん、そういうおバカなところも可愛いって思ってくれる人がきっと現れるわよ? だから強く生きましょう、ね?」



 ナイーブン、お前もか。

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